多様性を生かすための制度をどう構築するかが問われる--谷本寛治・一橋大学大学院商学研究科教授《第4回ダイバーシティ経営大賞・審査委員長総評》

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 「従業員多様性部門賞」はソニー様です。国内での取り組みにとどまらず、グローバルに人材を活用し、戦略的に現地化を推し進めてこられました。またこうした活動は昨日今日始まったことではなく、長らく取り組んでこられたということを踏まえ、受賞となりました。

次に、今回初めて設立した「特別奨励賞」です。さまざまな取り組みをされている企業がたくさんあり、正直なところ、最終審査に残った25社の皆様はどこが受賞されてもおかしくないという状況でした。その中で今回は2社を選ばせていただきました。アクサ生命保険様は、中長期的なビジョンを明確に掲げ、全社的な経営課題として取り組んでおられます。その姿勢にわれわれは賛同いたしました。シャープ様は男性、女性を問わず積極的にポジティブ・アクションに取り組んでこられたこと、特に母親社員率が高いことや女性の勤続年数が長いことを高く評価いたしました。

続いて、総評として2つコメントをさせていただきます。

1つは、ダイバーシティにかかわるさまざまな経営制度、CSR(企業の社会的責任)にかかわる諸制度が、ここ5~6年の間に急速に充実してきたと思います。しかし、もう一歩中に入って見てまいりますと、この制度がその会社の経営の中にどこまで活きているのか、根づいているのか、ということがなかなか見えにくいところがあります。

私どもはこうした賞の審査を通して、あるいは私が個人的にさまざまな調査をしている中で、マネジメントのプロセスやガバナンスのシステムの中に、こうした発想がどこまで組み込まれているのか、ということを見てまいりました。中には経営戦略として本当に入っているのか、同業他社が行っているからといって横並びで行っているのではないかと思われるケースもあります。その一方で、一見派手には見えないのですが、実は営々として5年、10年と地道に続けてきたことが、だんだんその会社の強みになっていく事例もみられます。

ダイバーシティ経営というのは、今年新しい制度を設けたから来年には成果が出る、というものではありませんし、また成果として測るということもなかなか難しいところがあります。しかし、人はさまざまな局面で多様な人との交流や経験を通して学んでいくものです。そして、学ぶということは人を変えていくことでもあります。会社が、組織が悪いからではなく、自分たち一人ひとりが変わらないといけない。そうした成果が具体的に出てくることを期待したいと思います。

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