ジャニーズ会見は「井ノ原次期社長」への布石か? あえてゼロ回答で刷新後に新体制発足も

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しかしその発言はきわめて的を射ただけでなく、表現力も豊かで、何よりその声のトーンと発言のタイミングが見事としかいいようのないものだった。会見場には顧問弁護士もおり、法的指摘はそちらが専門家だが、会見は裁判ではない。木で鼻を括るような反論などすれば、それがいかに正鵠を射ていようが視聴者の反発を呼ぶ。

特に東山氏の言葉足らずな説明には絶妙なタイミングと、記者も視聴者も不快さを感じない「入り方」によって、会見後半の裏回し(※)に見えた。

(※メイン司会者ではない出演者が、演出意図を汲んで進行しやすい環境を作ること)

質疑応答で時間を守らず質問したり、似たような質問、自説披露のような記者が視聴者から不快を呼んだのに比べ、井ノ原氏の対応は見ている人にも安心感を与える話し方と内容だったといえる。

ジャニーズ 井ノ原快彦 東山紀之
記者からの質問に誠実に答える井ノ原快彦氏(撮影:風間仁一郎)

第2幕はあるのか?

私はこの会見には第2幕があり、すでにそれを想定した構成として今回も演出されていたと想像している。今回猛ツッコミを受けても核心を突いた説明ができなかった問題への回答が第2幕である。

最も批判を呼んだジャニーズ事務所という呼称については、東山氏も変える可能性を言っている。藤島代表取締役は補償に専念し、業務が済めば退任すると言っている。非公開企業の株の行方を追うことは事実上不可能であり、今回の会見目的に戻るなら、それは何としてでも存続への芽をつなぐことだったとすれば、会見前の批判一色の報道や世論に、一定の理解を示す声が出始めただけでも成果と言えるのではないだろうか。

当然補償についてもしっかりとした対応をしなければ事業継続などありえない。単に補償するだけでなく、芸能活動を継続することが次の目的であるなら、「帝国」である必要もなくなる。もはやかつての帝国を再興することは見限り、芸能事業継続に的を絞るのであれば、タレントや事業、市場(特に海外)ごとに分社化することも現実的選択肢となる。

そうなれば必然的にジャニーズの名称を名乗る必要性が無くなる。解体的出直しそのものであり、帝国ではなくなった新体制発足時に、後継者さえいれば東山氏が社長でいる必要性も乏しくなる。

その後継者が誰かはわからない。しかし後継者の可能性を持つ人物の存在もアピールできた。そこまでの先を呼んでの舞台の前編だと考えると、今回の会見で批判が収まらないこと自体は成否とは呼べず、後編への伏線としての前編だという印象がどうしても捨て去れないのである。

増沢 隆太 東北大学特任教授/危機管理コミュニケーション専門家

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ますざわ りゅうた / Ryuta Masuzawa

東北大学特任教授、人事コンサルタント、産業カウンセラー。コミュニケーションの専門家として企業研修や大学講義を行う中、危機管理コミュニケーションの一環で解説した「謝罪」が注目され、「謝罪のプロ」として数々のメディアから取材を受ける。コミュニケーションとキャリアデザインのWメジャーが専門。ハラスメント対策、就活、再就職支援など、あらゆる人事課題で、上場企業、巨大官庁から個店サービス業まで担当。理系学生キャリア指導の第一人者として、理系マイナビ他Webコンテンツも多数執筆する。著書に『謝罪の作法』(ディスカヴァー携書)、『戦略思考で鍛える「コミュ力」』(祥伝社新書)など。

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