1億人の情報流出、ソニー復活への苦難

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ネットワーク戦略でアップル対抗のはずが

PSNは平井氏が力を注いだ事業だった。ゲーム機「プレイステーション3」(PS3)や「プレイステーションポータブル」(PSP)をネットにつないで会員登録すると、ゲームやアニメ、映画などのコンテンツを楽しむことができる。2009年11月時点の会員数は3300万人だったが、1年半で7700万人まで拡大している。

「ネット接続できない製品は単なる箱モノ」をモットーとする、ハワード・ストリンガー会長兼社長兼CEOも、実績を高く評価した。ゲームやパソコンを統括していた平井氏を副社長に昇格させ、赤字のテレビ事業をはじめとするコンシューマー製品全体を統括するよう、組織を改編。今年発売した薄型テレビの新モデルではネット接続機能を訴求した。秋に発売する新タブレット端末でも、米アップルなどと差別化するため、音楽や映画の自社配信サービスであるキュリオシティを掲げている。PSNの会員なら登録不要で利用でき、サービス開始時から“会員7700万人”の基盤を確保した。

これまでPSNの会員情報はSCEのネットワーク部隊が管理していたが、キュリオシティの一元管理も目的に、10年4月にネットワーク事業の子会社を米国で設立。今回はこの子会社から情報が流出してしまった。情報セキュリティ専門家の三輪信雄・S&J代表は、「ソニーの対策は期待をはるかに下回る水準。セキュリティの監視も本社でやるべきだ」と問題視する。業界では周知の脆弱性が存在したこと自体が驚きで、日本の通販大手やネット銀行すら下回るレベルという。

当然ソニーも、セキュリティにはコストを投じてきた。だが一方で、注力するゲーム事業は大赤字にあえぎ、過去1年間で1000億円規模のコスト削減を実施。利益を生まない、セキュリティ対策や顧客管理を社内でどう位置づけるか、経営陣が思案しても不思議でない。

大手ITメーカーの関係者からは「結局はハードの会社だから認識が甘い」との声も漏れる。米マイクロソフトや米IBMではハッカーを自社で雇い入れて対策に生かすなど、“付き合い方”を心得ている。片やソニーは今年1月、個人ハッカーを相手取って訴訟を提起(3月31日に和解)。その頃からハッカー軍団のサイバー攻撃を繰り返し受けており、「ソニーの一連の対応は稚拙」と冷笑する向きも少なくない。結果的に消費者の目には、傷ついたソニーブランドだけが映った。


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