「陸上総隊司令部」を新設するだけでは問題だ 肥大化する自衛隊の上部組織

拡大
縮小

このため、新組織やポストが”ビルド”される一方で”スクラップ”されない状態になってしまう。今回の陸上総隊司令部の編制では同格組織を廃止してない。格下である中央即応集団司令部を廃止しているだけだ。

本来なら、方面隊か師団のいずれかを廃止、あるいは両者を統合すべきであった。世界水準で言えば、今の陸自師団は旅団級の能力しかなく、方面でようやく師団規模であるためだ。

方面隊の実例で示せば、東北方面隊は如実である。方面隊の正面戦闘部隊は、正味で歩兵6大隊相当、砲兵1連隊相当、戦車1大隊相当でしかない。どう大目にみても師団(将官2名)が妥当である。

しかし、方面隊以下には多数のポストが含まれているため陸自は縮小には反対する。方面総監部と師団司令部2個で将官7名と、それ以下の代将や佐官級のポスト多数が用意されている。そして将官には大規模な幕僚組織や、属人的な副官や女性隊員・事務官の秘書、専用自動車と運転手、意図的に集合化を遅らせている一戸建て官舎が付属する。これは無駄に過ぎる。

実際に、陸上総隊については、一昨年の計画段階で意味を喪う方面隊を廃止し総隊-師団に改める話があった。だが、各方面隊で陸将1名・陸将補2名、5個方面隊合計で将官15名以下のポスト喪失を恐れる陸自の抵抗で残置されることになった。これは、組織の肥大化そのものといえるだろう。

中央即応集団とは?

スクラップ&ビルドの原則に反する例は、陸上総隊以外にもいくつでも挙げられる。

大きなものでは、すでに挙げた中央即応集団である。創立時(2007年)には形だけの部局廃止もなかった。つまり陸上総隊との引き換えで差し出すのは、8年前にゼロから作った組織だということだ。わらしべ長者のようなものだ。

また、特殊作戦群や西方連隊、水陸両用団も純増であり、なんらの組織廃止を伴わずに編制されている。本来であれば部隊新設で使い道が少なくなる空挺団を解体し、これら部隊にポストを充当すべきであった。

次ページ優先度の低い組織がそのまま残ってしまう
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