高価すぎるアップル「Vision Pro」に勝つ意外戦略 中国企業の完璧を求めすぎない「見切り発車」

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尾原和啓(おばら かずひろ)/1970年生まれ。京都大学大学院工学研究科応用人工知能論講座修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーにてキャリアをスタートし、NTTドコモのiモード事業立ち上げ支援、リクルート(2回)、ケイ・ラボラトリー(現:KLab、取締役)、コーポレイトディレクション、サイバード、電子金券開発、オプト、Google、楽天(執行役員)の事業企画、投資、新規事業に従事。 経済産業省対外通商政策委員、産業総合研究所人工知能センターアドバイザー等を歴任。 現職は14職目。シンガポール、バリ島をベースに人・事業を紡ぐカタリストでもある。ボランティアで「TEDカンファレンス」の日本オーディション、「Burning Japan」に参加するなど、西海岸文化事情にも詳しい。 著書に『プロセスエコノミー』『モチベーション革命』(幻冬舎) 、『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)など(撮影:干川修)

成嶋:さらにその「行動のレビュー」が、ECや広告などのビジネスにも波及していきます。メーカーが「あなたの磨き方だと、こういう磨き残しができやすいので、この歯ブラシと歯磨き粉がお勧めです」などとリコメンドすれば、場合によっては歯ブラシ1本しか買わないところを歯磨き粉もあわせて買ってくれるかもしれない。

尾原:アフターデジタルの文脈でいうと、大きく2つの段階で進化している、と整理できますね。第1段階は、ユーザーのバリュージャーニーを実現する「おもてなし型」の行動支援の進化。第2段階は、それによってメーカーとユーザーが直接つながり、さらに行動支援の進化が加速していく。

成嶋:これまではデータを入力するのも面倒でしたが、「スマホ×IoT×AI」でテクノロジーと人が直接つながることで行動がそのままレビューになり、ユーザーにとっての利便性を生み出してくれる。それが購買動機を生み、新たな需要を増やしていく。このループに入り始めているというのが、中国でいま起こっている変化だとみています。

完璧を求めるGAFAMと「割り切り」のよい中国テック企業

尾原:このARグラスの事例でもう一つ、いかにも中国らしいな、と感心したことがあります。アップルの「Apple Vision Pro」がいま話題になっていますが、あのような50万円もするハイスペックな技術を追い求めなくても、このくらいのレベル感でもバリュージャーニーは十分実現できうるということ。中国テック企業ならではの「割り切り」のよさを感じます。

グーグルやアップルなどアメリカのテック企業は、よくも悪くも「テクノロジーですべてを解決する」ことに美学を感じ、完璧を追求するところがある気がします。あくまで個人の感想ですが。

成嶋:中国テック企業の場合は、完璧でなくても、「猫のほうを向いていたら猫のえさを気にしているんだろう」と、「だろう」のレベルで見切り発車してしまいます。ユーザーが「いえ、猫のえさは気にしていません」とフィードバックしたらすぐに「ごめんなさい」とキャットフードの情報を消す。完璧を求めずに、「間違えたら修正すればいいんだろう」という、ある程度の「割り切り」で十分に革命を起こしているんです。そこが、中国テック企業に共通するすごさですね。

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