――29人の核から、どうやって187人の署名者を集めたのですか。
サンド: 元の29人で最終版を配布することによってです。
ダデン: それぞれが知人たちに配布したのです。
サンド: 声明は基本的に日本の外で日本研究に関わっている人たちの意見として考案されたものだったので、北米、ヨーロッパ、オーストラリアなどの同僚のあいだを回しました。日本にいる研究者も何人かは見ましたが、日本の外からのメッセージとして読まれることを望んでいました。
ダデン: 今の説明の通りです。今回の声明は、大勢の欧米人がアジアの人々に対し、すべきことを諭しているかのような印象を与える可能性があることは気づいていました。しかし、私たちは昨年末に日本の歴史学研究会が発表した声明の影響を受けていました。歴史学研究会の声明は、安倍政権の「慰安婦」問題に対する姿勢を強く批判する内容でした。
サンド: 日本の歴史学研究会の声明は多くの人たちが読み、大きな反響を呼びました。しかし、私たちは組織ではありません。声明は「このくらいは皆が合意できる、このくらいは常識のはずだ」と、納得した時点で、話し合いに参加した人たちが発表したものです。声明の署名者のなかには、互いに同じページに名前を載せられたことがない人たちもいました。互いに同じ部屋にいたくもないと考えている人たちもいるかもしれません。しかし、全員が今回の声明を共有したのです。
――安倍首相の米国訪問の後に発表したのは、意図的なものですか。
サンド: そうです。安倍首相が訪米する前に草案はすでにあり、多くの人たちが読んでいました。しかし、安倍首相が連邦議会の演説で何を述べるかを聞くまで声明は発表すべきではない、という意見がありました。私は、声明は安倍首相だけに宛てたものではないと考えていたのですが、その意見の重要性は理解しました。安倍首相が訪米し、米国の聴衆の前で演説を行って、私たちが提起している問題について何を語るか耳を傾けるべきだと思いました。
そして、最終版は、連邦議会で首相が行った演説の内容にも触れています。訪問と関連づけるために声明を急ごうとは思いませんでした。ただ、草案はすでに十分に回覧されていましたから、いよいよ最終版にするという段階でした。
韓国と中国の民族主義に触れた意図は?
――民族主義に関する一節について伺います。草案作成に関与した一部の人々が、声明が日本に対する集団攻撃にみえないように、韓国と中国の民族主義について触れることが重要だと考えたようにみえます。
サンド: 歴史的背景を無視しているのではないかとの懸念を表明した者も何人かいましたが、全員があの一節を受け入れました。民族主義の原因は場所によって大きく異なりますし、この場合はもちろん加害国と被害国の話ですから。
中国、韓国、それに「慰安婦」に関する日本でみられる民族主義をひとからげに論じるのは非常に安直にみえるかもしれません。しかし、現在この問題について、民族主義が決して日本だけの問題ではないという事実を無視できないことは全員が賛成しました。それぞれの国で問題を取り囲んでいる民族主義のために、ただでさえ複雑な「慰安婦」問題がさらに複雑になっています。
ダデン: 私たちのうちで、特に「慰安婦」問題に関して論文を発表している者たちの多くは、3国全部に存在する民族主義が問題解決の障害になっていることを明言しています。しかし、声明は、普段教室で行っていることに戻ろうとしています。それは、起こったことの実体、つまり「慰安婦」の歴史における野蛮行為に焦点を当てることです。歴史を武器として振りかざす人たちは、現実に現場で何が起こったかを忘れがちです。そのことに国境はありません。
サンド: 声明が伝えたかったことは、歴史を研究したり教えたりすることの倫理と、全ての政府は歴史家の研究を保護し、尊重する責任があるということです。
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