新聞業界が難癖「NHKテキストニュース」の行方 「地方紙のデジタル化」が成功しない納得理由

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8月29日の公共放送WGではこの1年の総まとめの報告書案が出てきた。新聞業界の揺さぶりにWGは押されたのか? あるいは本当に前回は「ガス抜き」で新聞協会の思いどおりにならなかったのか?

「報告書(案)」には確かに「理解増進情報は廃止する」とあった。だがよくよく読むと、テキストニュースも必須業務化され「放送番組と同一の内容を基本としつつ」、災害や重大事件など国民の生命・安全に関わる情報や、時間的制約のために載り切らなかった情報など放送番組に密接に関連または補完する情報に限定する方向で検討すべき、と書かれていた。つまり、テキストニュースは廃止されないし、「NHKプラス」同様、受信料を払う人はこれまでどおりそれを読めるということだろう。

テキストニュース廃止に異論を唱えてきた私は、ホッとした。前回のWGは本当に「ガス抜き」だったのだろう。逆に新聞協会の面々は憮然としていた。特に先述の「時間的制約のために乗り切らなかった情報など」の箇所については「いくらでもネットで配信できてしまう」からと修正の検討を求めてきた。新聞協会はこの会議ではオブザーバーでさえないのに、いつまで要求し続けるのかと呆れた。WGはこれが最後の回で、総務大臣も顔を出して有識者を労う挨拶もあった。修正などあるはずがない。

8月31日には、公共放送WGの親会にあたる「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」が行われた。こちらも最後の回で、いくつかの分科会のまとめが報告され、公共放送WGの報告書も説明された。驚いたのは、29日の報告書から「時間的制約のために載り切らなかった情報など」の部分が削除されていたことだ。公共放送WGは土壇場で新聞協会の要求を呑んだ。オープンな議論の後で見えないところで重要な削除が決まるのは、公の会議としておかしくないだろうか。

なぜ映像かテキスト?

また議論で情けなかったのは、なぜ映像かテキストかの話になるのかだ。インターネットは映像もテキストも音声も混在できる空間で、これからのジャーナリズムはさまざまな表現を駆使するべきではないか。NHKは映像だけやってほしいとの新聞協会の言い分は、ネットのあり方を理解していない証だ。新聞だって映像を扱わないと、今後は生き残れない。

だが地方紙のデジタル化がうまくいかないのは、彼らがネットの読者を見てないからだ。ある地方紙のネット版を見ると、有料記事も無料記事も登録しないと数行しか読めない。普通は、登録なしで読める記事もうまく配置する。そうじゃないと、ネットで読者と最初の接点さえ生まれない。WGに出席した新聞協会のメディア開発委員会はそういう指導をなぜしないのか。

地方紙は「デジタル化が遅れた」と今さら言ってる時点で、ネットを軽視してきた怠慢を自らさらしている。NHKがテキストニュースを廃止しても、そんな姿勢では読者を獲得できないだろう。政治家や有識者ばかり見ていて、ネットの読者を見ていないのだから。

境 治 メディアコンサルタント

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さかい おさむ / Osamu Sakai

1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。エム・データ顧問研究員。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。

X(旧Twitter):@sakaiosamu

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