ラーメンよく食べる人が知らない「漢字の歴史」 柳麺?拉麺?昔はどの漢字が使われていたか

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「拉麺」の広東語発音は「ライミン」です。 発音としては柳麺=ラウミーンのほうが拉麺=ライミンよりもラーメンに近いのです。

玉村豊男が指摘するように、拉麺はかつての広東では馴染みのない、手で伸ばす製麺法によって作られる麺を意味します。横浜中華街や来々軒の柳麺は、生地を薄く伸ばし包丁で切った広東伝統の切麺であり、拉麺ではありません。劉書記長の広東料理一覧にももちろん、 拉麺は登場しません。

老麺の広東語発音は「ロウミン」。老麺は天然酵母の小麦粉発酵生地を意味しており、ラーメンとはまったく関係ありません。

なぜ戦後になって誤った字「拉麺」「老麺」がラーメンに当てられるようになったのでしょうか?

拉麺=ラーメンの語源説をとなえ、世間に広めた1人が、1987年に『にっぽんラーメン物語』を著した小菅桂子です。

小菅は拉麺=ラーメン説の根拠となる戦前の資料や証言を提示しておらず、柳麺にはリユウミエンというルビを振っています。小菅は中国の標準語(マンダリン)の発音しか知らなかったようで、マンダリン発音でリユウミエンである柳麺は、ラーメンの語源ではないと考えたようです。老麺という字を当てた人も、マンダリンと広東語では発音が違うという知識を持たない人だったのでしょう。

もう1つ、柳麺という漢字表記が忘れ去られ拉麺/老麺に変わっていった理由があります。現在の広東に、柳麺が存在していないようなのです。

広東から消えた柳麺

横浜に渡来した広東料理のうち、チャーシューメン、ワンタンメン、シューマイについては現在も広東に存在しています(その内容は日本化した日本の中華料理とは異なっていますが)。

しかし、柳麺はその存在が確認できませんでした。どうやら柳麺は広東から消えてしまったようです。

広東料理に詳しい邱永漢も、2004年の著書『口奢りて久し』においてラーメンの語源は拉麺ではないかとしており、広東料理としての柳麺には心当たりがないようです。

柳麺とはどのような麺を使い、どのような味のスープで、どのようなトッピングを載せていたのか。拙著『お好み焼きの戦前史』では、戦前の横浜中華街において柳麺を食べた人々の証言等から、日本のラーメンのルーツ、失われた広東料理・柳麺の在りし日の姿を再現していますので、興味のある方はご覧ください。

近代食文化研究会 食文化史研究家

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きんだいしょくぶんかけんきゅうかい / Kindai Shokubunka Kenkyukai

食文化史研究家。2018年に『お好み焼きの戦前史』を出版。以降、一年に一冊のペースで『牛丼の戦前史』『焼鳥の戦前史』『串かつの戦前史』『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』等を出版。膨大な収集資料を用いて近代の食文化史を解き明かしている。(Amazon著者ページTwitterアカウントnote

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