名前が「エレガンス」ゲイの黒人監督の壮絶な半生 米国で人気作を続々生み出す「A24」の注目作
――アメリカの海軍といえば、閉鎖的な社会であることでも知られていますし、実際にこの映画でも、周囲の人たちからの、ゲイの人たちへと向けられる偏見に苦しめられる描写がありましたが、ゲイであるエレガンス監督が、その過酷な環境にあえて身を投じたのはなぜだったのでしょうか?
その話をするためには、まず自分のバックグラウンドから話す必要があります。自分は母親に家を追い出されてからずっとホームレスシェルターで暮らしていたんですが、母親に家に戻りたいと懇願したときには、「だったら軍隊にでも入れば」と言われたんです。
それがちょうど2005年頃で、いわゆるイラクでの対テロ戦争が起きていたときですね。ニュースでは兵士が戦死したとか、アルカイダに兵士が誘拐されたとか、そういうニュースばかりが流れているときだったので。母親からは「息子がゲイであるくらいなら死んだ方がマシだ」と言われているように感じられて。ものすごくネガティブな感情にさいなまされたんです。
「今の暮らしを変えたい」と海兵隊に入る
それでまたシェルターに戻ったわけですが、それでまわりのホームレスの人たちを見てみると、ここで10年、20年と、暮らしている人たちばかりで。自分も将来、こういうふうになりたいのかと考えたときに、「いやなりたくない。今の暮らしから抜け出したい!」と感じたんです。
そうしたら翌朝、海兵隊のリクルーター(採用を担当する軍人)が僕のところにやって来て、勧誘をしてきたんですが、彼が着ていた軍服がパシッと決まっていたので。君みたいにカッコよくなれるなら、ぜひとも入りたいね、と言ってしまった(笑)。でも彼の自信に満ちた姿、堂々としている姿を見て、自分もこうなりたい。自分だって彼のようになれると思った、というのは事実なので。それで海兵隊に入ることになったんです。
――海兵隊というのは、監督にとってどういう場所だったのでしょうか?
海兵隊というのはいわゆるエリート。アメリカ軍の中でもエリートとして扱われている組織なんです。僕自身ニュージャージーの郊外のゲットーで育った人間なので、そういうステータスに憧れがありました。そういうわけで海兵隊に飛び込んだんです。
――この映画で描かれた海兵隊時代の差別と憎悪の嵐は、非常に壮絶な体験だったと感じたのですが。
そうですね。この映画で描かれた主人公が感じる欲望、恐れ、そして最終的に抱く目標まで、すべて本物ですから。
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