名前が「エレガンス」ゲイの黒人監督の壮絶な半生 米国で人気作を続々生み出す「A24」の注目作

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でも自分自身は、何となく無意識的ですが、自分は何かを成し遂げられるんじゃないかと思っていました。もちろんその方法もわからないし、何のドアをノックすればいいのかもわからない。誰に教えを請えばいいのかもわからない。

とにかく根拠はなかったけど、それでも何かしらのことは成し遂げられるんじゃないかと思っていたんですよ。

というのも、自分の名前がエレガンスなので、幼い頃から、近所ではちょっとした有名人だったんですね。「エレガンスって名前のやつがいるぞ」と言われて。みんながのぞきに来るような存在だったので、いつかは注目されて成功できるんだ、と思い込んでいたんです(笑)。

いろんな苦労を乗り越えて今がある

もちろん黒人でゲイだということで、人生においていろんな苦労はありました。それを乗り越えて今に至るんです。だからあの冒頭に出てくるホームレスの男性というのは、その当時、自分にいろいろと教えてくれたメンター的な人たちの象徴的存在として出したキャラクターです。

自分のまわりにいた多くの人がAIDSや、いろいろな理由で命を落としてきたんですが、映画のように自分に声をかけてくれて、若者には可能性があるんだということを教えてくれた人たちもいた。

なのでもしすべてを失って、絶望の淵に立ったとしても、何かしらの努力をすること、チャレンジすることが大切。それはこれまでの人生経験から学んできたことなので、それを観客の皆さんにも伝えたいと思っていました。

何かしらの危機的状況にある人、苦しんでいる人、もう変わることは無理だと諦めている人だって、行動に移せば人間は変われるんだと。この映画を観て、そう受け取ってもらえたらいいなと思っています。

Elegance Bratton(エレガンス・ブラットン )/1979年生まれ。16歳でホームレス生活となり、そのまま10年過ごした後、アメリカ海兵隊に入隊。海兵隊在籍中に映像記録係として映画の制作を開始し、コロンビア大学の理学士(2014)とニューヨーク大学ティッシュ校大学院映画学科の修士(2019)の学位を取得。ヴァイスランド・テレビのシリーズ「My House」の企画および製作総指揮としてテレビ・デビューを果たし、2019年GLAADメディア賞の最優秀ドキュメンタリー部門にノミネートされた。2021年、フィルム・インディペンデントのトゥルー・ザン・フィクション・スピ リット・アワードを受賞。自身の半生を描いた『インスペクション ここで生きる』で長編映画デビューを果たし、トロント国際映画祭でプレミア上映。世界各国の映画祭で絶賛された。
壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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