名前が「エレガンス」ゲイの黒人監督の壮絶な半生 米国で人気作を続々生み出す「A24」の注目作
――この時代の経験が映画監督のキャリアに影響したことはありますか?
いろんな意味で自分の糧になっています。海兵隊の採用試験を受けたときは非常に高い点数を獲得しました。そこで記録映像担当に従事することになったのですが、そこでは戦場のドキュメンタリー映像を作ったり、武器の扱い方、撃ち方などを指導する映像を作ったりしていました。
そこからもいろいろと学びましたし、あるときはブートキャンプを終えたときに上官に呼び出されたこともありました。そんな偉い人から急に呼び出されたので、怒られるのかなとビクビクしていたんですが、そこでは彼が書いた脚本を手渡されたんです。
それは彼の退官式のための脚本だったんですが、読んで意見をほしいと言われて。僕をそういうふうに、映画監督のような存在として見てくれるのかと。もしかしたら彼は僕の才能に気づいてくれていたのかもしれないなと思った、ということは強く印象に残っています。
映画の撮影に入る前に母が亡くなった
――監督にとっては映像の仕事が現状を打破するきっかけになったと思うのですが、映像の仕事が癒やしになったところはありますか?
実はこの映画の撮影に入る直前に母親を亡くしているんですけれども、母親は自分を追い出してから、決して自分を家の中に入れてくれることはありませんでした。
だから家の中に入ることができたのは、母が亡くなってからだったんですが、遺品を整理しているときに出てきた母の形見のジュエリーや聖書などを、撮影のときに(母親を演じた)ガブリエル・ユニオンに使ってもらいました。
そうすることによって彼女が母親をよみがえらせてくれたという感覚があって。それがある種の癒やしにもなったし、セラピー以上の効果はあったかなと思います。あと母親が住んでいたアパートのセットも実際のアパートを再現しているんですけれども、こういうプロセスも、自分の苦しみから救ってくれたのかなと感じます。
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