原発「処理水」放出、あきらめと不安、憤りの間で 福島の漁業関係者に聞く、復興への苦難と思い

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ただし原発の廃炉については不安が絶えないという。

「1号機や3号機の下なんてどうなっているかわからないでしょ、デブリが落っこちて。あれを引き揚げて安全に処理するのに30年、40年かかる。また何かが起こるって不安はあります」と語り、理由として世界的にも処理の実績がなく、「手探り状態」であることを挙げた。

新妻隆・いわき市漁協専務理事(撮影・筆者)

次に「処理水」の海洋放出について聞くと、「私たちは海洋放出には絶対反対。陸上で管理してほしい。廃炉に時間がかかればその間に技術も確立して、いい方法も出てくる。放出って今やるべきことなのでしょうか」とストレートに答えた。

東電や政府から安全性について何度も説明を受け、「科学的には理解している」が、だからといって「了解した」とは言えないという。

「風評被害がどうなるかわからないですからね。情報を正しく理解して物事を判断する人って何人いますか。人の話を聞いて、ああそうなんだ、じゃあそうしようという人が大部分でしょう」

「わめかず、静かに反対」する理由

他方で新妻さんは、「風評を気にしていたら前に進めない」ともいう。

「風評は漁業者にはどうすることもできない。われわれはしっかり検査をして、おいしい魚介類を消費者に提供する。風評被害の払拭は国や東電が考えてやっていくことです」

いわき市漁協では9月から漁獲量を上げていくことを決めたという。今は震災前の2割程度だが3年後には5割近くに引き上げるのが目標だ。漁業者は「わめかず、デモもせず」「静かに反対」を続けながら漁業の復活を目指すという。

一方、国は風評被害による損害を賠償するための基金として2021年度補正予算で300億円、また2022年度には全国の漁業者を支援するための基金に500億円を計上している。それでも福島県漁連は「処理水」の海洋放出に反対する姿勢を崩していない。

2015年に東電の社長と交わした「関係者の理解なくして放出しない」との約束にこだわるからだ。

そこには東電や国の対応への根本的な不信感もある。

「事故を起こしたのはしょうがないけど、事故のつけまで福島に負わせようとするのは腹が立ちますね。『一番お金がかからないのが水で希釈して海に流す方法』と言うのを聞くと、安易な方法を選んだのだなあと思います」

その一方で漁業者の複雑な心情も垣間見えた。「処理水」をめぐって漁業者はこれまで数えきれないほどの意見交換会をしてきたが、そこでは意外な発言も飛び出したという。

「『国、東電で決めたんだから、奴らは絶対にやるぞ』『漁業者の意見を反映して何かをするなんて話じゃないんだ』って意見も出されました。つまり『辺野古みたいになる』っていうこと、沖縄の。『反対しても意味はない。こちらの考えを言うだけで終わりでしょ』と言う漁業者もいました。冷めていますからね、漁業者って」

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