台湾の隅々に侵食する「中国ファクター」の実態 選挙介入から偽ニュース拡散、世論操作まで
――中国ファクターは台湾の民主主義や社会を傷つけているといえますか。
傷つけているといえる。2012年の選挙では実証研究も行われた。一連の「92年コンセンサス」の喧伝による影響力行使で、台湾の中間層における馬氏の得票が5~10%増えた可能性がある。接戦だったので、中国ファクターがなければ馬氏はあのように勝てなかったかもしれない。
また2018年には関西国際空港で台風によって孤立した旅行者への支援をめぐり、中国発のフェイクニュースが広まった。台湾政府は中国政府に比べ対応がずさんだったとして、社会で批判が上がり、大阪に駐在する台湾の外交官の自殺も起きた(詳細は「大阪駐在の台湾外交官はなぜ死を選んだのか」)。台湾で「関西空港事件」と呼ばれる認知戦は、ほかの政治的要素とともに同じ年の地方選挙での民進党大敗にも影響した。
新型コロナ禍中の2021年に台湾ではワクチン不足が起き、台湾では社会不安が広がった。その際にも中国は台湾の蔡英文政権が無能で腐敗していることがワクチン不足の要因と認知戦を展開した。実際には中国が台湾政府による海外ワクチンの購入を妨害していた。世論操作によって、民進党政権の正統性を傷つけている可能性がある。
――2024年1月には総統選を控えています。中国は影響力を行使していますか。
もちろんしている。中国の影響力に台湾社会や政府も警戒するようになった。そのため中国は注意を払い、反中国感情を起こさない形で影響力を行使しようとしている。
直近では、中国は国民党の幹部や地方首長との交流を深めている。例えば、国民党籍の人物が県長(知事)を務める台東県には中国が禁輸していた果物の出荷を認め、国民党が有利になる状況を作ろうと試みている。
まさにアメとムチだ。中国は台湾に軍事的圧力というムチとともに、国民党には利益を供与し、台湾市民に国民党でなければアメは得られないと理解させようとしている。
「親中」意見がTikTokやYouTubeにも
――中国の印象を上げるためのネットでの発信はどうですか。
例えばTikTokなどは若者が好んで使っており、影響力行使のツールにも使われている。それ以上に有名な事例は、著名ユーチューバーなどインフルエンサーの活動だ。親中的な意見や今の民進党政権を批判し、影響力を持っている。
彼らは中国の代理人のような行動をするが、過去のメディアへの影響力行使とは異なる事例といえる。かつて中国は親中企業によるメディア買収やコンテンツの買い取りなどで影響力を行使してきた。これは明確に契約やお金の流れが見える。しかし、インフルエンサーたちは視聴者による投げ銭(寄付)による形式なので、明確な契約関係がない。
こうした人たちは、親中的な発言や蔡英文への批判をすることに関して契約の有無は確認できない。ただ、親中的な言動で投げ銭が増えるならば、ユーチューバーは自然と親中あるいは反民進党言説を広めるほうに向かう。これが今の台湾の言論空間に影響している。
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