台湾の隅々に侵食する「中国ファクター」の実態 選挙介入から偽ニュース拡散、世論操作まで

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――中国ファクターに台湾はどう対抗していますか。

台湾社会は、中国ファクターへの対応で他国より多くの経験がある。他国にない大きな特徴は、台湾では中国ファクターへの対抗が市民社会から始まったことだ。他国では政府が対応を主導している点と異なる。

中国で菓子など食品事業を展開する旺旺集団(ワンワングループ)という親中企業が、台湾の大手新聞社やテレビ局を買収していた。同社は2012年にさらにケーブルテレビのチャンネルを増やそうと試みたが、これに対して学生や若者らがメディア独占に反対する運動を展開し、親中言説の広がりに抵抗した。

2014年には、中国とのサービス貿易協定締結に反対する「ひまわり運動」が起きた。立法院(国会)の議場を平和的に24日間占拠し、同協定の批准に関する採決を阻止した。当時与党だった国民党と中国共産党の協力関係にクギを刺した。

以上は市民社会が効果的に中国ファクターに対抗した事例だ。2016年に民進党政権になって、政府も中国ファクターへの対策を始めたが、現在も市民社会が主導している。

中国が意図しなかった台湾社会の変化

――中国ファクターは効果を発揮し、中国の台湾社会への浸透は成功していますか。

台湾への影響力行使について、成功か失敗かを全体で評価することは難しい。個別に成功や失敗の事例がそれぞれある。ただ、中国が影響力を行使する究極的な目的は台湾を併合することだ。それは達成されておらず、台湾では民主政治を継続しているという点では中国ファクターに抵抗できている。

台湾社会は影響をそのまま受けて変わる無機質なものではなく、有機的で能動的な主体である。中国ファクターの影響を受けたら、対抗する動きも必ず生まれる。双方の力は拮抗しており、中国の台湾への影響力行使は進化し続けるが、台湾の抵抗力も進化する。

中国ファクターを15~20年の期間でみると、中国が意図しなかった結果を台湾社会にもたらした。それは台湾独立運動の方向性を変えたことだ。従来の台湾独立運動は第2次世界大戦後に台湾にやってきた中華民国体制に対し、憲法を変えて新たに台湾として、建国独立したいというものだった。

ところが、現実的な見方をすれば、この10数年間で台湾独立は中華民国に対する内向的なものから、中国ファクターや中華人民共和国に対抗する、統一戦線工作に反対する外向的なものに変わったといえる。それはつまり、内向的な台湾独立運動から外向的な台湾独立に変化していったといえる。これが中国政府の意図していなかった結果のひとつだ。台湾独立を推進する人たちは別の見方をするだろうが、これは歴史に対する私がもつ1つの読み解き方だ。

ただ、もともと建国独立を主張していた民進党も、現在では、台湾はもともと独立国であり、その国号は中華民国だとする。この「中華民国台湾」の考えは台湾社会で多数が受け入れて、主流になっている。これは実際には現段階における歴史的な妥協である。

中国ファクターが台湾のあちこちで観察され、対抗すべき反民主や統一の圧力が、主に中国発であるとわかったからだ。これは、中国がもたらした台湾の歴史的変化であり発展である。

劉 彦甫 東洋経済 記者

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りゅう いぇんふ / Yenfu LIU

解説部記者。台湾・中台関係を中心に国際政治やマクロ経済が専門。1994年台湾台北市生まれ、客家系。長崎県立佐世保南高校、早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了、修士(ジャーナリズム)。日本の台湾認識・言説を研究している。日本台湾教育支援研究者ネットワーク(SNET台湾)特別研究員。ピアノや旅行、映画・アニメが好き。

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