「おもちゃの車を作るように」テスラの驚く発想力 時価総額世界1位の自動車メーカーから学ぶ事

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■全世界での値上げ方針なので、やるのは当然

「そもそもラグジュアリーブランドは値下げをすれば売上を簡単にあげることができる。でも我々はそれをやらない。そんな売り方はブランドの存在価値に背くからだ」

安易な価格プロモーションがブランドの死を招くことは身に染みていて、討議するまでもなくそのブランドですべきこと、すべきではないこと(Do’s and Don’ts)の判断基準が企業文化になっている。

これは、事業そのものへの信条の問題だろう。

サイモン・クチャー社の調査****によると、「ラグジュアリー製品の販売価格を2%引き上げると、税引前利益が9〜25%向上する(利益増加幅の差異は製品カテゴリーに依存)ことが判明しており、価格最適化による利益拡大の機会が存在する可能性は高い」という。

***「コロナ3年の時価総額増減、LVMHが値上げ力で躍進」(日本経済新聞/2023年1月9日)
****「ラグジュアリー製品のプライシング 精緻なプライシング戦略がもたらす利益拡大」(山城和人、泉本みらの/サイモン・クチャー/2020年8月)

ピンチの時こそ値上げを実行

■あり得ない値上げをしても、顧客が喜んで買う理由

ディズニーランドは増税やコロナ禍など、客数が落ち込む経営環境の時こそ値上げを実行する。価格支配力を維持しているから可能なことだ。

そんな東京ディズニーランドも、世界ベースで他のディズニーアトラクションと比較すると、実は価格は世界一安い。さらに為替変動によって差は開くばかりだ。よって、今後も値上げする可能性は高いと考えられる。

ディズニーにとって、ブランドで大きな付加価値を生むことは戦略方針そのものなのだ。

2022年5月には「ディズニー・プレミアムアクセス」が導入された。これは1人2000円を支払うと、1つの人気アトラクションの待ち時間を短くして楽しめる施策だ。

価格支配力とマーケティング
『価格支配力とマーケティング』(クロスメディア・パブリッシング)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

支払い意欲の高い特定のターゲット向けに値上げをおこない、収益を最大化している。

ここで、「わが社はそのようなブランド企業ではないから、そうした事例には当てはまらない」と感じたら、思考停止状態と言えるだろう。どのような企業であっても、社名や商品、サービス名を登録していて、1人でもお客様がそれらを認識して選んでもらえるならば、立派なブランドだ。

つまり、そこには識別記号としてのブランドが存在する。ブランド・プロミスと呼ばれる「約束・暗黙の契約」の意味もあるはずである。あとはそれが強いか、弱いか。その間の諧調だ。

テスラ、ラグジュアリーハイブランド、ディズニーランドのいずれにとっても、強いブランドは経営の意思と構築するノウハウがないところには成立しない。

菅野 誠二 ボナ・ヴィータ代表取締役、BBT大学教授(マーケティング)

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かんの せいじ / Seiji Kanno

早稲田大学法学部卒、IMD経営大学院修了(MBA)。ネスレ日本で営業・ブランディングを経験後、マッキンゼー&カンパニーにて経営コンサルタントに。ブエナ・ビスタ(ウォルト・ディズニー・カンパニー ビデオ部門)のマーケティングディレクターを経て、ボナ・ヴィータ設立。コンサルティングによる企業の戦略立案とアクションラーニングを通じた企業変革に携わる。著書に『価格支配力とマーケティング』『値上げのためのマーケティング戦略』(ともにクロスメディア・パブリッシング)『外資系コンサルのプレゼンテーション術』(東洋経済新報社)、他など。

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