足元の景気は悪くない感じである。①個人消費が好調だし、②インバウンドの伸びという追い風があり、③企業の設備投資意欲も強い。それぞれをチェックしてみよう。
消費についていえば、やはり「強制貯蓄約50兆円」の存在が大きい。コロナ下の家計部門は可処分所得を十分に使いきれず、2020年の貯蓄率は11.0%にまで上昇した。その後も2021年は7.2%、2022年も4.1%と高めに推移した。これが2023年になると、2019年の2.9%や2018年の1.1%に近い水準まで低下するだろうから、それだけ消費は伸びることになる。
もっとも「物価上昇下の消費好調」がいつまで続くかといえば、そこは少々疑問が残る。今年の夏は「コロナ前の暮らしが戻ってきた」から、お盆のフライトなどは絶好調で、「羽田空港は駐車場の予約が満杯」なんてことが起きている。
しかるに、今の需要が一巡したあとの持続性はどうなのか。年内は「平常への回帰」で消費回復が期待できても、来年以降はさらなる成長へのドライビングフォース(推進力)が見当たらないという懸念がある。
インバウンドは2019年比7割超え、今後の伸びしろは?
次に、インバウンドの伸びは確かにすさまじい。7月19日に公表された6月の訪日外国人客数は207万人と、コロナ後では初めて200万人を突破した。1~6月の累計では1071万人となり、上半期で1000万人の大台を超えている。
ツーリズムの消費は地元に直接おカネが落ちるので、地方経済にとっては貴重な存在といえる。とはいえ、足元の水準は「オーバーツーリズム」と言われていた2019年の約7割に相当する。人手不足気味のツーリズムの現場では、この辺が「受け入れ可能な限界」となっているのではないか。
問題は今後の伸びしろである。今の時期に日本を訪れている観光客は、「コロナが明けたらとにかく日本に行きたい」と切望していたコアなファンが多いと考えられる。だからこそ、1人当たりの消費額も高い。
これが来年になれば、リピーター需要が頼りということになる。「ベテラン旅行者」を中心とする出費は、おそらく今年ほどにはならないだろう。
3点目に、企業の設備投資意欲がある。6月の日銀短観を見ると、2023年度の設備投資計画は、全規模全産業で前年度比11.8%増となり、民間予測(9.3%増)を上回った。コロナ下で先送りしてきた投資を、ようやく着手し始めた感がある。
とくに人手不足感が強い昨今は、省力化投資が欠かせない。あるいは10月からのインボイス制度導入に伴い、システムやソフトウェア投資も増えそうだ。
ただし、多くの企業が一斉に設備投資を始めるとなると、資材価格はもちろん上がるし、人手不足も加速することになる。各種ボトルネックが生じるところへ、来年4月からは例の「2024年問題」が控えている。「働き方改革関連法」の施行に伴い、物流業界は受けられる仕事量が低下することになる。ゆえに「2025年春に開幕する大阪・関西万博の工事準備は大丈夫なのか」などという心配もある。
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