「デフレ脱却」できないことが日本経済を救う皮肉 家計も企業もアフターコロナ回復は早くも失速

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なお、日銀短観(6月調査)で示された大企業・全産業の設備投資計画(土地投資額を含み、ソフトウェア投資額・研究開発投資額は含まない)は前年度比13.4%増と、強めの結果だった。しかし、これはコロナ禍で蓄積していた「受注残」が出荷されていくことで説明できる。

すなわち、企業の会計上の処理やGDP統計では、出荷ベース(発生ベース)で設備投資が計上されることが基本であるため、すでに発注済みの投資が実行されるだけでも設備投資は相応に積み上がることになる。

したがって、足元の機械受注の弱含みはこれからおおむね半年程度経ってからGDP統計などで認識されることになるだろう。

「ディスインフレ」は救世主

コロナ禍以降、日本の実質GDPや所得収支(海外からの純受取)が増加する中、交易条件の悪化(主に輸入物価の上昇)によって、日本の実質国民総所得(GNI)は伸び悩んできた。

実質国民総所得の推移

賃上げ機運の高まりによって労働分配率には多少の変化が生じているようだが、そもそもの国民総所得が増えていなければ、家計の実質賃金の増加には限界がある。

この点について、コストプッシュ型のインフレが一巡することで、足元で交易条件に改善の兆しが見えていることは朗報である。短期的には日本の総所得を増やす方向に作用しそうである。

一方で、コストプッシュ型のインフレによって日本のデフレ体質(ノルム)を修正するという期待はしぼむことになりそうであり、長期的な課題である「デフレ脱却」を阻む動きが当面の日本経済を支える構図は「痛し痒し」である。

末廣 徹 大和証券 チーフエコノミスト

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すえひろ とおる / Toru Suehiro

2009年にみずほ証券に入社し、債券ストラテジストや債券ディーラー、エコノミスト業務に従事。2020年12月に大和証券に移籍、エクイティ調査部所属。マクロ経済指標の計量分析や市場分析、将来予測に関する定量分析に強み。債券と株式の両方で分析経験。民間エコノミスト約40名が参画する経済予測「ESPフォーキャスト調査」で2019年度、2021年度の優秀フォーキャスターに選出。

2007年立教大学理学部卒業。2009年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学修士)。2014年一橋大学大学院国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース修了(MBA)。2023年法政大学大学院経済学研究科経済学専攻博士後期課程修了(経済学博士)。

 

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