ネパールへの自衛隊展開は、なぜ遅れたのか 長距離輸送機の調達戦略に問題あり

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さらに将来をみれば、輸送力不足はより深刻となる。自衛隊の海外活動は今以上に大規模、本格化する。より大重量・大容積の物資を、より遠方に運ばなければならないためだ。

例えば、集団的自衛権で話題となっている機雷除去でも航空輸送能力が必要になる。略掃や航路調査により先行して通航可否の判断をする場合には掃海ヘリや、場合によればサイドスキャンソーナー付きの小型ボート、無人水上艇USVや使用する簡易掃海具DYADといった装備を空輸する必要が出てくる。そしてこれらの空輸はC-2では、文字通り荷が重い。

C-2では戦車を運べない

また、将来的には戦車を運ぶ必要も出てくる。本土防衛での必要性は相当減少したが、国際貢献の本格化により、紛争地帯で使う単純な移動トーチカとしての必要性はむしろ高まるためだ。これは最大搭載量30トンのC-2では輸送できない。

救難潜水艇(DSRV)空輸といった話もいずれはでてくる。中国海軍力の伸張の結果、日本潜水艦の活動範囲もより遠洋化する。また、今でも日本と共同救難訓練をしているアジア各国の潜水艦運用も活発化する。このため、自国潜水艦遭難や他国要請による潜水艦救難も遠距離化は免れない。潜水艦救難は時間との戦いであり、南シナ海やインド洋といった遠距離に迅速展開するには米海軍のようにDSRVを空輸するしかない。だが、これもC-2では実現不能である。

これらの所要を満たすには、C-2以上の輸送力が必須となる。より大重量・大容積の物資をより遠距離に運べる機材が要求される。

そして現状で入手できる機体ではC-17しかない。C-17は、全ての能力でC-2を超えている。C-17は最大積載量72トンで4500km飛行可能である。C-2最大搭載量である30tでも、8000km近くは飛ぶことができる。輸送機で最重要である貨物室容積でも勝っている。貨物室容積はC-2の256㎥(計画値)に対し、C-17は592㎥だ。

今からでもC-2を中止し、C-17を購入することによるメリットは大きいように思われる。ただしC-17の新規製造は今年で終了するため新造機は手に入れられないかもしれない。だが、米国から中古を分けてもらうことは可能だ。米国にとっても海外派遣の一部肩代わりとなるので、悪い話ではなく好意的に対応するだろう。

仮に独自開発を継続するにしても、現状のC-2はやめておいたほうがよい。能力的には既に中途半端である。海外輸送では力不足であり、スペックの見直しが必要だ。ただし、国内輸送では既存のC-130でも能力をもて余しておりC-2は過剰性能である。つまり、無理をしてC-2を少数機生産する必要もなく、それにより部品供給といった後方支援の面倒を背負い込むべきではない。輸送機開発の経験を積めたことで良しとして量産への移行は中止し、海外派遣用として能力の高いC-17を少数購入し、国内輸送用には既存のC-130の買い増しをしたほうがいい。

文谷 数重 軍事ライター

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もんたに すうちょう / Sucho Montani

1973年埼玉県生まれ。1997年3月早大卒、海自一般幹部候補生として入隊。施設幹部として総監部、施設庁、統幕、C4SC等で周辺対策、NBC防護等に従事。2012年3月早大大学院修了(修士)、同4月退職。現役当時から同人活動として海事系の評論を行う隅田金属を主催。ライターとして『軍事研究』、『丸』等に軍事、技術、歴史といった分野で活動

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