有力取引先である大手損保からのプレッシャーがある事案だけを渋々、コメントしているのだとしたら、自社の修理サービスを信じて任せてくれた顧客に対する誠意はどこにあるのかと問いただしたくもなる。
ビッグモーターの異様なる「完全黙殺」の広報戦略だが、これまでは功を奏してきた。「完全黙殺」が機能してきた理由は、3つに集約できる。
ひとつはビッグモーターが非上場であること。非上場なので、決算会見や株主総会といった経営者が追及されうる「公の場」に立つ必要がないのだ。
2つ目は「完全黙殺」によって、メディアの報道を「結果的に」最小限で抑えることができたことだ。
もし何らかの謝罪コメントをビッグモーターが発表すれば、メディアは「謝罪コメントを出した」という「事実」を報じることができる。だが、何のコメントも出さなければ、メディアはSNSや『FRIDAY』が指摘する不祥事が「事実」かどうか、「自ら」取材しなくてはならない。取材して「事実」だと確認できたとしても、所詮、SNSや『FRIDAY』の「二番煎じ」に過ぎない。記者心理としては、「わざわざ、やる気が起きない」のだ。
最後はビッグモーターの顧客層がネット情報にそれほど接していない層だということだろう。ビッグモーターはラジオに大量の広告を出稿している。あるいは新聞の折り込みチラシも積極的に用いている。つまり、主な顧客層は「普段はラジオを聴いている人々」や「紙の新聞の購読者」ということなのだろう。
ビッグモーターの不祥事は主にSNSであったり、『FRIDAY』のネット配信であったり、民間車検場の資格を取り消された店舗がある九州のメディアとそのネット配信記事で伝えられてきた。ネットを中心に広がったビッグモーターの悪評は、主な顧客層にはそもそも届いていなかったのだろう。
「完全黙殺」戦略も、今回の調査報告書で綻びが生じた
さて、最後に「これからも」完全黙殺の広報戦略は機能するのかを考えてみたい。結論から言うと、私は今回の調査報告書によって、「完全黙殺」戦略に綻びが生じたと見ている。
保険会社からの圧力によって調査はさらに進み、保険料が割高になった契約者に対しても、順次、返金処理が行われることになるだろう。そうなれば、これまでネット情報に接してこなかった「被害者」も否応なく水増し請求の事実を知ることになる。
ビッグモーターの事故車修理は年間3万件超あったとされる。報告書によると、全国に33あった整備工場のうち、すべての工場で水増し請求が行われていた疑いがあるという。「被害者」は膨大な数に及ぶのではないか。
「被害者」たちは普段は開かないSNSで怒りをぶつけるかもしれない。新聞社や週刊誌に、ビッグモーターの不誠実な対応を告発しに向かうかもしれない。職場などリアルな場でも怒りをこめて話題に上げるはずだ。今、まさに「パンドラの箱」が開いたのだ。
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