「飼料サーチャージ」では酪農を救えない根本理由 農水省で議論、乳価に飼料費を反映させる制度
近年、中国における飼料需要増やウクライナ危機により、とうもろこしの価格が高騰。そこに円安も重なった。飼料費は酪農の経営コストの約4~5割を占めることから、それが酪農家の経営を直撃している。
もちろん、乳価の交渉で飼料価格の高騰は考慮されている。乳業メーカー大手3社は今年8月から牛乳の価格を約3~13%値上げする。牛乳価格は昨年11月にも値上げされたが、いずれも飲用向け乳価の上昇を反映したものだ。
ただ昨今の飼料価格の高騰は急ピッチで、乳価への反映が追いつかない。乳価の交渉が原則年1度なことも、飼料価格と乳価の変動にタイムラグを生む要因になっている。そこで議論の俎上に乗ったのが、「飼料サーチャージ的な仕組み」なわけだ。
この仕組みを巡ってはさまざまな意見が出ている。農水省の会議で委員を務めるJA全農の齊藤良樹理事は、「コストの上昇を適切に反映させる何らかの仕組みは必要だ。一方で酪農業界に起きている事態を消費者をはじめとしたみなさまに理解してもらう取り組みや、急激な需給変動に対しては国による措置なども同時に検討する必要がある」と話す。
一方、乳業メーカーなどで組織する日本乳業協会は、「メーカーは生乳価格が上がれば商品への価格転嫁を検討せざるを得ない。乳価へのコスト反映による負担がメーカーだけにのしかからない仕組みづくりを求めたい。需給への影響を考えると、これが本当に生産者のための仕組みなのか、それを検討することが先ではないか」とコメントした。
輸入飼料に依存し続けてきた日本の酪農
乳牛のエサには、牧草などが主原料の「粗飼料」と、とうもろこしなどの穀物が主原料の「濃厚飼料」の2種類がある。主原料から想像されるように、粗飼料は7割以上が国産なのに対し、濃厚飼料の大半は輸入で賄っている。そして、粗飼料の給与割合は、北海道で52.4%と過半を占めるが、都府県では38%にとどまる。
国産飼料の利用が進んでこなかったのは、基本的には国産飼料より輸入飼料のほうが安かったからだ。これまでは輸入価格が数年に一度高騰しても、その時期を過ぎれば輸入飼料のほうが安価だった。実際、2008年や2012年に起きた輸入価格の高騰時も、国産飼料へのシフトは起きなかった。
また一般的に、濃厚飼料は粗飼料に比べて栄養価が高い。酪農経営に詳しい北海道大学の小林国之准教授は、「日本では、酪農の本格的な拡大期以降、能力の高い牛に輸入飼料を給与してたくさん乳を搾る方法で酪農が行われてきた。このスタイルを転換し、ある程度乳量は減っても国産飼料を使う基盤を作っていかなければ、飼料自給率はなかなか上がらない」と指摘する。
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