「多様なシングル」世界で増える3つのメカニズム もはや一大マーケットの「独身人口」を読み解く

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また、経済発展の状況がシングルの増加を促進している場合もある。その好例はインドだ。インドは今でも伝統的な国だが、経済発展によって、若い人たちが経済的に独立できるようになってきている。若者の購買力が上昇したことで、多くの独身のインド人が親元を離れ、雇用のチャンスの多い大都市に移動している。また、こんにちのグローバル化された世界では、機動性と地理的な柔軟性を必要とする職業もある。この場合、多くの若いプロフェッショナルたちにとって、結婚はキャリアの発展の障害となってしまう。

メディアの中の「魅力的なシングルたち」

メディアが人々の結婚観に与える影響も大きい。たとえば、テレビ評論家たちは、独身女性たちの友情や文化を高く評価する『セックス・アンド・ザ・シティ』(1998〜2004)における女性の描き方を革新ととらえた。このドラマは、女性にもなんの義務ももたない性的快楽を楽しむ権利があると前向きに主張していた。『となりのサインフェルド』(1989〜1998)『フレンズ』(1994-2004)『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』(2007-2019)などの番組のなかでは、シングルの人たちは社交的で、笑いにあふれた生活をし、たくさんの友人に囲まれている。

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これらの作品は、シングルが社会的、また文化的に注目を集める存在になったことを反映し、前向きにとらえてもいる。このプロセスは、若い視聴者が安心してシングルのライフスタイルを選べるようになるという意味で、さらに進んでいくことになる。

こうしたドラマと似たような人物像は欧米以外でも登場した。ブラジルでおこなわれたある調査によれば、メロドラマ番組のネットワーク「グローボ」を視聴できるようになってから、パートナーと別れたり、離婚したりする女性の割合が急上昇した。

その影響は、それまでリベラルな価値観に親しんでいなかった小さな地方自治体に住む人たちのほうが大きかった。同様に多くの社会が、深く根付いた伝統的な家族単位とは矛盾するライフスタイルの影響にさらされるようになったことも、シングル増加の一因となっていると言えるだろう。

人に結婚を強要したり、結婚を急がせたりしたのでは、「喜びにあふれた結婚生活」になるはずがない。人々は、今まで見てきたような数々の要因の中で、結婚よりシングルの生き方を選んでいる。これからは、政策立案者も社会全体もその事実を受け入れ、結婚するかしないかにかかわらず、どうしたら1人ひとりが幸福に生きられるかを真剣に考えていくべきなのではないだろうか。

エルヤキム・キスレフ 社会学者

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えるやきむ きすれふ / Elyakim Kislev

イスラエル・ヘブライ大学の公共政策・政府学部で教鞭を執る。マイノリティー、社会政策、シングル研究が専門。米国コロンビア大学で社会学の博士号を取得したほか、カウンセリング、公共政策、社会学の3つの修士号を有する。リーダーシップ、移住、社会・教育政策、エスニック・マイノリティー、グループ・セラピー、シングルなどのテーマで、多くの記事・書籍を執筆・編纂している。

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