「多様なシングル」世界で増える3つのメカニズム もはや一大マーケットの「独身人口」を読み解く

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まず注目すべきは、人口統計上の変化だ。中でも大きな変化として、世界中の出生率の大幅な低下がある。経済協力開発機構(OECD)のデータベースによれば、出生率が目に見えて低下している国の一例はメキシコだ。女性1人あたりの出生率は1970年には6.6だったが、2016年には2.2まで下がっている。また、ほとんどの欧米諸国で、出生率は1970~80年代に人口の維持に必要な出生率を大きく下回るようになった。

出生率の低下は、シングルの人数をさらに増加させるさまざまなプロセスを引き起こす。

まず、子どもの人数が減れば、結婚の時期を遅くすることが可能になる。出産可能年齢を考えるときに、1人目、あるいは2人目の子どもを産む時期までを考えれば十分なので、最初に子どもを産み始める時期も遅くできるようになる。加えて、出生率低下の影響は新しい世代に受け継がれていく。少人数の家庭に育った人たちは将来、同じように少人数の家庭を作る場合が多い。こうして、このプロセスはどんどん受け継がれていく。

もう1つの人口統計上の変化は、平均余命の延長だ。現代医学の奇跡が平均寿命を大幅に延ばしている。経済協力開発機構(OECD)の2017年の統計によると、加盟国の出生時の平均寿命はすでに約80歳となっている。私たちの生きる年月が長くなったということは、離婚した後や、配偶者に先立たれた後に1人で生きる年月も長くなるということだ。こうした「シングルシニア」たちの台頭がシングル人口の増加の一因となっていく。

経済的に困難でも安定してもシングルは増える

経済状況がシングル増加に与える影響も大きい。多くの社会で、財政的安定は結婚の前提条件だと考えられている。だから、経済危機の時代や、雇用のチャンスが不足している時代に生きる若い人たちは、そうではない時代に比べて、人生の長い時期を独身で過ごすことになる。

2008年の金融危機以後、ヨーロッパのなかでも、スペインやイタリアのような国々では、若い人たちが金融危機そのものに加えて、高騰する住居費にも苦しんでいる。ヨーロッパでは、住居費が可処分所得のかなりの部分を奪ってしまうこともあるので、多くの若者が結婚のタイミングを遅らせ、恋愛に最も適した年月をお金を稼ぐことに費やしている。

一方、政府が若者の経済的困難を軽減しようと努力しても、独身の人たちは急いで結婚しようとはしない。ここでは、別の論理が働いている。誰かと一緒に暮らすことによる金銭的なメリットが少なくなっているために、若い人たちはあえて結婚を選ばないのだ。

たとえば、進んだ福祉国家であるスウェーデンでは、多くの人たちが高校卒業後、個々にアパートメントに入居して、少なくとも財政的には、独立して暮らせるようになっている。このことは若者がシングルのままでいる理由の1つになっている。ストックホルムの単身世帯の割合が60%と、世界でも最もその割合が高い都市なのも不思議なことではない。

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