「潜水艇タイタン」悲劇の責任は誰が取るのか 遺族が会社を相手に訴訟を起こすのは困難か

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ノースカロライナ州キャンベル大学で海事史を教えるサルバトーレ・メルコリアーノ准教授は、タイタンのような潜水艇は通常の船舶と違っておおむね規制の対象とならないと指摘する。

「(こうした潜水艇は)特定の国で登録することを義務付けられていない。だから『海上における人命の安全のための国際条約(SOLAS条約)』のような国際条約に準拠する法律には縛られない」と、彼は本誌に語った。

それでもアメリカでは1993年の客船安全法を遵守しなくてはならないはずだが、タイタンは国際水域を運航していたため、これにも従わなかったという。

「潜水艇は一大産業で、多くの民間船舶が深海掘削やケーブルの敷設に従事している」と、メルコリアーノは言う。「アメリカ船級協会(ABS)などの第三者機関が潜水艇を審査し船級ごとに分類するが、タイタンはABSの審査を受けていなかった」

船舶が設計や建造の基準を満たしていることを船主、保険会社、規制当局に保証する格付け「船級」をタイタンが取得していないことは、オーシャンゲートも認めている。

「有人潜水艇の設計と運営において理性あるイノベーションを極めることを目指し、オーシャンゲートは設立された」と、同社はウェブサイトでうたう。「その定義上、イノベーションは既存のシステムにとらわれない」

訴訟に勝算はあるのか

乗員乗客が死亡事故を含む免責同意書に署名したため、遺族がオーシャンゲートを相手取って訴訟を起こすのは難しいと専門家はみる。

「免責同意書の有効性は連邦海事法が判断する」と、バージニア大学の法学者ケネス・エーブラハムは言う。「だが、ほとんどの州で同意書は有効と見なされるだろうし、文言によっては遺族にも効力が及ぶと類推される」

とはいえ効力が及ばない関係者も考えられる。「潜水艇を製造したのがオーシャンゲートと別の組織なら、そこには免責が適用されないだろう。これも同意書の文言によるが、潜水艇の不具合を引き起こしたのが製造元であれば、責任を問われる可能性はある」

人身傷害が専門の弁護士ミゲル・カストディオは英デイリー・メール紙で、遺族がオーシャンゲートを訴えられるのは事故の原因が同社の乗組員の過失にあると立証できた場合に限ると述べた。

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