任天堂創業家、東洋建設株を巡る「1年戦争」に決着 取締役の過半を握ったYFOは「完勝」したのか

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YFOは2022年4月に、東洋建設に対して1株1000円でのTOB(株式公開買い付け)を提案した。しかし、協議はまったく進展せず、2023年1月に、YFOは独自の役員候補を株主提案すると公表。対する東洋建設は2023年5月に、「YFOの企業価値向上策を遂行しても、当社の企業価値は向上しない」と、TOBへの反対を表明した。

対立の構図が鮮明化する中、海外株主の投票に影響を与える議決権行使助言会社の判断も揺れた。インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、株主提案については6人に賛成、3人に反対を推奨。会社提案については、5人に賛成、6人に反対を推奨していた。

こういった動きが入り乱れ、状況は複雑化。「(株主提案の決議は)どちらに転ぶか、まったくわからなかった。社内はいつもとは違う緊張感があった」。東洋建設の若手社員は、株主総会当日朝の社内の様子をそのように話す。

決議の行方は、個人投資家の間でも注目が高かった。株主総会に出席した40代の個人投資家は、決議集計中の休憩時間に、東洋経済の取材に応じてこう答えた。「株主提案の役員候補には、全員に賛成票を投じた。YFOについては、任天堂のボス(中興の祖)である山内溥さんが(事実上)後継に指名した山内万丈氏が代表を務めている。山内家の血縁を信じたい」。

こういった個人投資家の賛成票が、一部株主提案に流れたことで、会社側が均衡すると事前に読んでいた決議の行方に影響を与えた可能性はある。

別の個人投資家は決議の結果を受けて、次のように感想を述べる。「正直驚いた。ただ、会社提案と株主提案の役員候補には、可決される人と否決されている人がいて、一方的な結果になっていない。双方の主張が反映されたという意味でよかった」。

吉田氏の就任は「ポジティブサプライズ」

株主総会の株主提案決議については、取締役の過半数を握ったYFO側が「完勝」した形となった。だが、東洋建設側から見て「完敗」だったかというと、そうでもない。

東洋建設の代表取締役社長に就いた大林東壽氏(右)。左は前社長の武澤恭司氏。5月24日、社長交代発表会見の様子(記者撮影)

株主総会では会社側から、専務の大林東壽(はるひさ)氏と副社長の平田浩美氏が取締役として順当に再選した。賛成の割合はどちらも87%超と、ほかの人物がすべて50%前後の賛成率だったのと比べて高い支持を受けた。その後の取締役会を経て、大林氏が代表取締役社長、平田氏が代表取締役副社長に予定通り就任した。加えて、取締役会では元三菱商事常務でYFO側の吉田真也氏も代表権のある会長に就くことが決まった。

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