新1万円札「渋沢栄一」は日本の顔にふさわしいか 来年7月に発行、デザインの刷新は20年ぶり

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昨今、事業に成功して大金を儲けても、それを貯め込んでしまう経営者が目立ちます。こうした中、世の中の発展のために使った渋沢の行動は、称賛に値します。しかし、儲けたお金を投資することが、現代日本の経済人に最も必要であり、重要なことでしょうか。

金持ちになった後のお金の使い方よりも大切なのは、世の中を発展させる革新的な事業を創り出すことです。投資家よりも起業家です。アップル株に投資しているウォーレン・バフェットよりも、アップルを創ったスティーブ・ジョブズのほうが偉大なのです。

渋沢は、実に多彩な活動をしましたが、メインの職業は投資家です。起業家として本当に自分が中心になって手を動かして創り上げた会社は、意外にわずかです。しかも、第一国立銀行や東京ガスなど国内インフラ企業が中心で、世の中にない新しいタイプの企業やグローバル企業は見当たりません。

日本には、明治維新から今日に至るまで、革新的なグローバル企業を創った起業家がたくさんいます。たとえば戦前なら岩崎弥太郎や豊田佐吉。戦後なら本田宗一郎、盛田昭夫、松下幸之助など。彼らのほうが、渋沢よりもはるかに「日本を代表する経済人」と言えるのではないでしょうか。

このように、行跡から見ても功績から見ても、渋沢が新1万円札で「日本の顔」になるのは、あまりふさわしくないと思います。

深謀遠慮があった?

こうして渋沢を振り返ると、麻生太郎元財務相や日銀の黒田東彦元総裁が、どうしてこんな選択をしてしまったのか、という疑問が湧いてきます。

ここから先は、まったくの筆者の憶測です(気軽にお読みください)。策略家として知られる麻生元財務相と黒田元総裁は、日本経済の発展・繁栄を願って、以下を念頭に渋沢を選んだのかもしれません。

それはキャッシュレス化の推進です。日本では、今なお高額紙幣が日常的に決済で使用されており、世界のキャッシュレス化の流れに取り残されてしまいました。また、107兆円に上るタンス預金も、インフレによる財産価値の目減りや相続税隠しなど多くの問題をはらみます。

来年7月以降、渋沢の行跡が広く世界に知れ渡り、新1万円札が敬遠されてあまり使われなくなる。マスコミや国民は、「渋沢に代わる新札を作るべきだ」「そもそも1万円札って必要なの?」と騒ぎ出す。そして、新1万円札など高額紙幣は廃止される……。

もしこの憶測が正しく、キャッシュレス化が大きく進展するなら、渋沢は極めて適切な「日本の顔」なのかもしれません。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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