テスラ「スーパーチャージャー」が充電規格統一へ GM、フォードに続きボルボも。日本はどうする

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ヨーロッパの自動車メーカーは日本向けに少数派の右ハンドルで、かつほぼ日本だけのCHAdeMO仕様を仕立てている。それが飛ぶように売れているならまだしも、そもそもボリュームの小さい輸入車市場の中でも、まだまだ他国に較べてユーザーの拒否反応が強いBEVの販売数はごく少数と言っていいレベルに留まる。

昨年のある日、筆者はメルセデス・ベンツのCEO、そして技術担当重役から「日本の充電インフラをペンの力でなんとかできないか」と、笑顔で、とは言え半ば本気で言われたことがある。

今後、ヨーロッパメーカーがほぼ全モデルをBEV化していくとすると、手間がかかる割に数は売れない日本市場はラインナップ縮小、あるいは撤退のようなことだって考えられなくはないというのが、他社も含めて取材してきての実感である。

たとえばお隣、韓国の充電規格はCCSをそのまま使っており、しかも左ハンドルとあってヨーロッパメーカーにとっては非常にビジネスがしやすい状況になっている。日本も、自動車鎖国を避けるためにはその手はあるのでは?そう思っていたが、こうした状況になるとNACSこそが有力な選択肢として浮かび上がってはこないだろうか。

なお、日本でのNACS対応についてボルボ・カー・ジャパンに問い合わせたところ、「今回の契約は北米(カナダ、アメリカ、メキシコ)の話です」との回答だった。ただし、現時点では、という話である。

日本メーカーが選ぶべき規格は

海外メーカーのためだけではない。日本メーカーだって、輸出もするモデルについては、1つの車種にほぼ国内規格と言っていいCHAdeMOとCCSとNACSの全部を用意するなんて無駄なことをしなくて済む。ユーザーにとっても使い勝手の面でメリットは多い。となれば、検討の余地はあるはずだ。それこそ“軍門に下る”ような話を、受け入れられればの話だが、すべてはユーザーのためと考えれば……。

そもそも、NACSを導入したとしても勝負はまだ決したわけではない。先日のトヨタの発表では、2027~2028年の実用化に向けて開発中の全固体電池搭載のBEVは、10-80%の急速充電時間10分、航続距離1200kmを目指すという。とりわけ1回の充電で1200km走れるということに着目するならば、経路充電での急速充電の重要度は下がる。

ちょっと先の未来には、とにかく急速充電ありき、速度アップありきというBEVとその充電に関する現状とは、また違った流れになってくることは間違いない。

可能性ベースの話ばかりになってしまったが、とにかく重要なのはユーザーにとっての利便性、使い勝手である。それが満たされない限りBEV普及は遠い。少なくとも北米では、そうしたシフト、いやブレークスルーが起きつつあるのだ。

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島下 泰久 モータージャーナリスト

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しました・やすひさ / Yasuhisa Shimashita

1972年生まれ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。走行性能からブランド論まで守備範囲は広い。著書に『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)。

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