企業経営者の行動を考えると、世間が賃上げによる物価上昇分の補填を求める声に満ちると、「ゼロ回答」というわけにはいかなくなる。他社の横並びの様子を確認しながら、ある程度の賃上げを行うだろう。もちろん、個々の業界や企業の事情にもよるだろうが、全般的には収益が好調な現在の日本企業には賃上げ要求に応える余力はある。
しかし、急激な円高などで収益環境が悪化することがあれば、企業は「賃上げしない理由」を簡単に得ることになるだろう。
副作用の解消は「大事の前の小事」
日々の経済ニュースから一歩引いた感覚で、上記のように考えてみると、日本銀行の植田和男総裁の「総裁就任以来まったく動こうとしない姿勢」の意味がよくわかる。
国民の物価に対するノルムを変えようとする大目標に対しては、日銀の個々の政策の手直しなどは、「大事の前の小事」なのだろう。
気楽なので、自分のことを材料にしよう。
筆者は、日銀総裁の交代が視野に入ったここ数カ月間、投機を呼ぶ危険性があるYCC(イールドカーブコントロール)の撤廃について言及してきた。
また、株式の保有構造として、つたなくて同時に運用会社に対する通称「日銀補助金」(運用管理手数料の支払いが年間数百億円にのぼる)の問題がある日銀のETF(上場型投資信託)の買い入れと保有などを、「即刻修正すべきだ」とし、「植田新総裁は遠からず修正するだろう」とほうぼうの記事に書いてきた。
しかし、国民の物価に対するノルムを書き替える大目的に照らすと、優先度の低い「小事」であり、意見としては「雑音」の類だったのかもしれない。「それは後回しでもいいのではないかな」と諭されたら、しばし考えて、うなずくしかない。大物を狙う釣り人(植田総裁)に、雑魚(筆者)が頭を下げて海に戻るような絵が思い浮かぶ。
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