スバル、EVの「寒冷地対策」で生じる課題と商機 温度管理の技術に注力する電池戦略は実るのか

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では、寒冷地向けとそうではない地域向けで、高度な温度調整機能のありなしを造り分ければいいのかといえば、それは現実的な話ではない。

スバルはもともと生産総数が小規模で、これまで車種や製造ラインを絞ることで効率化を追求し、収益性を高めてきた。そうした中で、気候を考慮した造り分けをすれば生産効率が落ち、かえってコストがかかるからだ。

つまり、これからどのような技術を開発するにしても、スバルのEVには極寒時でも耐えられるだけの温度調整の装備が共通の標準装備となるだろう。スタッドレスタイヤのように、「必要な人だけオプションとして買ってください」というわけにはいかない。

この点が、寒冷地以外のエリアでEVを販売するうえで悪影響にならないか――。必要十分な温度調整の設備のコストがいくらになるかが不明な現時点で、それは見通せない。

欧州や中国では巻き返しに期待

他方で、電池の温度管理の技術開発は、スバルにとって課題や懸念ばかりというわけではなさそうだ。

スバルは目下、巨大市場である欧州や中国でほとんど販売できていない。2022年度の販売台数の実績では欧州が2.3万台、中国が1万台にすぎない。どちらも、本来はスバルのSUVが得意な寒さが厳しいエリアが多いものの浸透できていない。

しかし、大黒柱であるアメリカの寒冷地での販売を守るために、電池の温度管理の技術開発を高いレベルで成功させられれば、それが欧州や中国の寒冷地のニーズにもマッチし、販売台数を伸ばす糸口になるかもしれない。

この日、社長としては最後の株主総会に議長として臨んだ中村知美氏(現会長)も、「欧州や中国はどちらかと言えば今は苦戦している地域だが、EVのラインナップが増えてくればチャンスがあるのではないか」と、競争環境の変化による期待を口にした。

その中村氏の後を受け継ぎ、株主総会後の取締役会を経て新社長に就いた大崎篤氏は、アメリカ色の薄い技術屋の出身だ。アメリカの現地法人の会長兼CEOも歴任した中村氏とは系統が異なる。市場からは、「新体制では、スバルもアメリカ一辺倒から変わり、もう少し多様化を目指していくのかもしれない」(アナリスト)という声もある。

冒頭のとおり、藤貫氏は電池の温度管理を「実力が問われるところ」と述べたが、差は難易度が低くないところにこそ生まれていく。スバルはこれまで、水平対向エンジンや、高度な先進運転支援システム(ADAS)のアイサイトといった独自の技術を生み出し、他社と差別化してきた。寒冷地対応への切迫性が非常に高い自動車メーカーとして、「窮すれば通ず」で今の状況を奇貨とできるかが、問われている。

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奥田 貫 東洋経済 記者

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おくだ とおる / Toru Okuda

神奈川県横浜市出身。横浜緑ヶ丘高校、早稲田大学法学部卒業後、朝日新聞社に入り経済部で民間企業や省庁などの取材を担当。2018年1月に東洋経済新報社に入社。

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