これは、アクアライン開通による房総半島~東京・神奈川との交流促進を期待していた千葉県にとっては誤算で、2009年にETC利用の乗用車に限り800円に引き下げる公約を掲げた森田健作氏が、千葉県知事に当選。森田知事の手腕により国と県の補助を引き出し、公約通り値下げが実施された。
その結果、1日の平均交通量は、2008年度のおよそ2万台から4万台へと倍増。これをきっかけとして、飛躍的に需要を喚起したという歴史がある。筆者自身も、もしアクアラインの通行料金が4000円のままだったら、マイカー通勤を諦めたであろう。
しかし、この割引料金により、アクアラインは夕方の川崎方面への慢性的な渋滞が顕著になり、対策が待たれていた。コロナ禍からの回復で再び増加した2022年度の通行量は初めて1日5万台を超え、数字のうえでも混雑は明らかとなっていた。
そこで、試行が決まったのが、変動料金制である。
これまでも、2021年の東京五輪開催時に、首都高速道路を大会関係車両がスムーズに通行できるよう、昼間の通行料金を引き上げたケースがあったし、現在でも午前0時から4時までに一部でも高速道を走行していれば料金が3割引きとなる、深夜割引も行われている(この制度は2024年度をめどに割引方法や時間を変更予定)。
したがって、料金の割増や割引自体は珍しいとはいえないが、渋滞の緩和を目的に高速道路の料金を一定時間で変動させる試みは、日本では初めてとなる。
海外で実施されている変動料金制
クルマの通行に対し課金することで通行量をコントロールする施策は「ロードプライシング」と呼ばれ、時間帯によってその地域に流入・通過するクルマへ課金したり、その料金を時間帯によって変えることは、海外で先行例が存在する。
筆者は昨年12月にシンガポールを訪れた際、下の写真のように市の中心部(中心業務地区=CBD)で、クルマからの信号を感知する「ERP(Electric Road Pricing)」の路側器を何度も目にした。その名のとおり、ロードプライシングのための機器だ。
狭い土地に人口が集中する都市国家シンガポールでは、すでに1975年から都心部の渋滞を緩和するための課金が行われてきた。
当初はあらかじめチケットを購入してフロントガラスに貼り付ける方式だったが、1998年からは日本のETCのように無線通信で課金を行うERPを導入し、きめ細かい課金が可能になった。
2011年と少し古いデータだが、都心に入るクルマは午前7時30分までが無料、7時30分~8時が0.5シンガポールドル(以下:ドル)、8時~8時5分が1.5ドル、そして最混雑時間である8時5分~9時が2.5ドルで、それを過ぎるとまた0.5ドルずつ下がっていくという段階的な変動料金が設定された。
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