偽物の官製成功事例を見抜く5つのポイント なぜ「コンパクトシティ」は失敗したのか

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ここで重要なのは、全ての情報を鵜呑みにしないことです。個人や組織の都合で情報は常に歪むと考えるべきで、無条件に信用してはいけません。

本物の成功と偽物の成功を見分ける「5つのポイント」

「成功事例」と「官製のみせかけの成功事例」が混在するような現状を批判したところで、残念ながらすぐに改善される見込みはありません。とすれば、「自己防衛」をするほうが先決です。私は以下の5点について注意して、紹介されている事例を判断するようにしています。

(1)初期投資が交付金・補助金のような財政中心ではなく、投資・融資を活用しているか

(2)取り組みの中核事業が、商品やサービスを通じて売上げをたて、黒字決算となっているか

(3)始まってから5年以上、継続的に成果を出せているか

(4)トップがきれいなストーリーだけでなく、数字について語っているか

(5)現地に行ってみて1日定点観測して、自分の実感としても変化を感じるか

例えば上記の(1)(2)を徹底していれば、今回紹介した2事例が成功事例と言われていた段階から、財政出動で開発され、さらに赤字経営を余儀なくされていたことから、問題は見破れたわけです。これらは一見成功事例としてまかり通っている「危険な事例」を今すぐ見抜くことができる、一つの方法です。

私は自分で投資もしながら地方で事業をやることが多いため、誤った成功事例情報に踊らされると致命的な問題を抱えます。だからこそ、あくまで自分で事業開発と合わせて、各地を回って常に実態をインプットすることにしています。そして、仲間同士でその実態を共有しています。

実際に地域での取り組みを進めていれば美談ばかりではありませんし、一気に地域が再生するような劇的な取り組みもありません。地道で小さいものがほとんどです。過度に美しいストーリーで語られ、まちが一気に活性化した、といった文脈で語られるものは疑った方がよいのです。そんなに楽に地方が再生するのであれば、誰も苦労しません。

つまり、地方のさまざま事例をみる場合には、適切に疑う力も必要です。外部の情報は疑ったうえで、自分は自分のまちでどうするか、という考えに転じ、自ら試行錯誤で実践してみる。その実感こそが真実だと思います。

今、持続可能な地方をつくるうえで大切な考え方は、大成功よりも大失敗をしないことです。他の地域の成功事例に踊らされず、自分のまちでの地道な取り組みを、外からの評価を気にせずに、小さく産んで少しずつ育てることに注力することこそ、重要なのです。

木下 斉 まちビジネス事業家

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きのした ひとし / Hitoshi Kinoshita

1982年東京生まれ。1998年早稲田大学高等学院入学、在学中の2000年に全国商店街合同出資会社の社長就任。2005年早稲田大学政治経済学部政治学科卒業の後、一橋大学大学院商学研究科修士課程へ進学、在学中に経済産業研究所、東京財団などで地域政策系の調査研究業務に従事。2008年より熊本城東マネジメント株式会社を皮切りに、全国各地でまち会社へ投資、設立支援を行ってきた。2009年、全国のまち会社による事業連携・政策立案組織である一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンスを設立、代表理事就任。内閣官房地域活性化伝道師や各種政府委員も務める。主な著書に『稼ぐまちが地方を変える』(NHK新書)、『まちづくりの「経営力」養成講座』(学陽書房)、『まちづくり:デッドライン』(日経BP)、『地方創生大全』(東洋経済新報社)がある。毎週火曜配信のメルマガ「エリア・イノベーション・レビュー」、2003年から続くブログ「経営からの地域再生・都市再生」もある。

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