「天候を自在に制御する」が夢の世界ではない根拠 想定外の被害や自然の摂理に反することへの懸念も

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2008年の夏季北京オリンピックでは、会場に近づく雨雲をコントロールした。雨雲が会場で雨を降らす可能性が高まったため、会場に近づく前に対応したのだ。その対応とは、小型の飛行機で上空からヨウ化銀を散布すること。ヨウ化銀は、雲の中の水蒸気と化学反応を起こすため、会場に届く前に強制的に雨を降らせてしまうのだ。

ほかにこんな話もある。ロケットを打ち上げて雨を回避したという話だ。これも北京オリンピック当日、別の雨雲が会場に接近していたところに、1000発もの小型ロケットを打ち上げ、上空でヨウ化銀を散布したのだ。

このような人工降雨のテクノロジーは、干ばつや水不足への対応として、中国やロシアではよく使われているという報道もある。「中国やロシアだけなのか」と思われるかもしれないが、そうではない。実は、アメリカでも行われている。1961年と大分昔になるが、アメリカ気象局がハリケーンの目の付近に飛行機からヨウ化銀を散布する実験を行っている。これによってハリケーンは最大瞬間風速が50m/sから35m/sへと弱まったという。ただし、詳細は不明だが、これ以降アメリカのこのような研究は進展していないようだ。

雷までも避けるテクノロジーが確立

では、日本はどうだろうか。2021年に横浜国立大学に台風科学技術研究センターが設立された。同センターでは、台風を正確に観測し、進路や勢力、被害額も正確に予想・シミュレーションできるテクノロジーが研究されている。また、台風を使って発電するテクノロジーも研究されているという。

この研究は、政府のムーンショット型研究開発事業にも選ばれており、政府がお墨付きを与えている未来テクノロジーとして有望視されているものなのだ。台風の目に氷などを撒くことで、暖かい空気を冷やして気圧の低下を抑え、勢力を落とすというものだ。

同センターの研究は、被害を抑えるためのものだけではない。台風の勢力が及ぶ付近の海上にヨットに似た無人船舶を出して、台風の風によって船舶が進む際のスクリューの回転を利用して発電するテクノロジーの研究も行われているのだ。

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気象コントロールのテクノロジーは、豪雨や台風などを対象としたものだけではなく、ほかにもある。それは雷だ。「ロケット誘雷」というもので、ワイヤーにつながれたロケットを雷雲に向けて打ち上げて避雷針のように機能させ、雷を落とすものだ。

2023年1月にスイス連邦工科大学ローザンヌ校は、レーザーによる誘雷の実験に成功したと発表した。このようなテクノロジーによって、あらかじめ雷を落として、落雷してほしくない場所、地域への損害を回避できるのだ。

しかし、これらの気象コントロールの研究は、ハリケーンや台風の進路が変わってしまうことによる想定外の地域への被害や、複数の国や自治体にまたがる責任分担、利害関係などの課題もある。それだけでなく、「自然の摂理に反する行動は許されるのか」などという意見も専門家のみならず、一般人からも上がっている。このような未来のテクノロジーが実現し、実用化されると出てくる問題ではあるが、あなたはどのように考えるだろうか。

齊田 興哉 宇宙ビジネスコンサルタント

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さいだ ともや / Tomoya Saida

東北大学大学院工学研究科量子エネルギー工学専攻博士課程修了、工学博士。JAXA(宇宙航空研究開発機構)に就職。人工衛星の設計フェーズ、打ち上げ、運用までを2機経験した。その後、日本総合研究所へ入社。宇宙ビジネスのコンサルティングに従事し、政府事業や民間企業を支援したのち独立。NHK、TBSテレビ『ひるおび』、ABEMAPrime、毎日放送『せやねん!』などのテレビ番組に宇宙ビジネスの専門家として出演。著書に『最新宇宙ビジネスの動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム)『ビジネスモデルの未来予報図51』(CCCメディアハウス)などがある。

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