フランス人にとって「革命」「デモ」が持つ意味 「革命の5月」を乗り切ったマクロン政権

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しかし、今回の5月の運動は、膠着状態であるがマクロン政権の崩壊は見られない。民衆のあいつぐデモ、ストライキに耐えているのだ。なぜだろう。

今回、フランスで大問題となっている年金問題は、都市の空間から排除され、細々と生きている老人たちの権利の擁護でもある。その意味では、5月革命のような展開を期待することもできる。

また、都市の権利運動として起こった公園占拠運動にも近い。この運動のガイドブックともなったステファン・エセルの『若者よ怒れ! これがきみたちの希望の道だ』(エドガール・モランとの共著)なども、ルフェーヴルの考えとよく似ている。エセルは第2次世界大戦のレジスタンス出身で、外交官として人権擁護運動にも深く関わった人物だ。

世界的連携がないと運動は成功しないのか

しかし、不思議なことに、マクロン政府はまったくひるむ様子はないのだ。パリ5月革命を体験した立命館大学名誉教授の西川長夫は、『パリ五月革命 私論』(平凡社新書、2011)で、この運動が成功したのは、当時世界との運動の連携があったからだと述べている。

確かに今、フランスの年金問題への世界の関心は低いし、これに触れられることも少ない。今回の運動は、5月革命の時代とちがって、今一つ世界への関心を捉えることができていないのである。

もっとも、世界はそれどころではない。確かに、ウクライナ戦争へのNATO(北大西洋条約機構)の全面協力、経済制裁によるブーメラン現象としての物価上昇、年金問題はまさに深く結び合っているのだが、今一つ、世論がそれを意識して行動していない。ウクライナ戦争への出費増大が年金に影響するのは必至だ。

しかし、ウクライナ問題は取り上げにくい。なぜなら大手メディアはウクライナ支持を打ち出し、フランス人の多くも、公にウクライナ支援をやめろとは言いにくい。物価上昇は逼迫しているが、それは世界中どこも同じであり、フランスだけの問題ではない。

フランスの財政赤字はGDP比率で100%を超えている。政権が変わっても64歳への支給年齢引き上げは、いずれ来る必然的問題かもしれない。

年金制度は、資本主義社会の経済成長と若者の人口増によって成立したものであるが、その成長も人口増もいまや多くの国でも実現できていないのである。

ウクライナ戦争への出費は難題だが、もしロシアが勝利するようなことがあれば、西側経済は破綻するのではないかという懸念があり、武器をひたすら送り、そこに望みをつなぐしかないのも事実だ。

そうなると年金問題の撤回も、マクロンの退陣もありえず、半年にわたる抗議運動は、徒労に終わる可能性が高い。

やはりパリ・コミューンや5月革命、そしてフランス革命のような大きな運動は、100年のタームでしか来ないのかもしれない。市民はそう簡単に日常生活を中断することなどできないのだ。「さくらんぼ」は、実らないのだ。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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