死の現場を支える「葬送の仕事師」の正体 すべては「不在の在」を演出するために
多様化、カジュアル化といったニーズが見られるのは、ブライダル業界においても同様の傾向である。先日も「結婚式、Amazonで注文できるように」というニュースが報じられていたことは記憶に新しい。だが葬儀において顕著なのは、「遺体の扱い」という大きな制約が立ちはだかっていることにある。
葬式というイベントにおいて重要なのは、スクリーンに流す映像のようなものを作るのではなく、スクリーンそのものを作るようなところにある。参列者たちはその「スクリーン」に在りし日の姿を各々投影し、故人を偲ぶ。それは非常にハイコンテキストな行為なのだ。だから身体性を感じるものが必要とされ、実現にあたってはさまざまなプロの技術が必要となってくる。
おくりびと、納棺師の仕事
著者は、「死」の周辺に位置するさまざまな職人たちの仕事ぶりに密着し、その心意気までをも伝えていく。葬儀のプロを志すまでのライフストーリーと、プロになった後で目にする死を取り巻く日常。多感な時期に身の回りの人を亡くし、その道を志すことになった人も多い。若くして「生の中の死」に直面したことが、その運命を反転させるかのように「死の中の生」を生業にすることへと、つながっていったのである。
映画「おくりびと」でも有名になった納棺師たち。遺体の顔を復元することまで請け負う人たちも多く、その仕事ぶりはまさに神業である。遺体に声をかけながら、右の瞼を少し持ち上げ、瞼の裏側と眼球の隙間に綿花をはさんだピンセットの先を滑りこませる。手は休めずに綿花の入っている瞼の表面を軽くつついて膨らみを安定させる。これだけで、くぼみ切ってどろんと開いていた目が、穏やかに眠っているような目元に変貌するのだ。ある復元納棺師はこう言う。
「私はご遺体に触れることにまったく抵抗がなかったんですね。なぜって聞かれても、理由なんかない。むしろご遺体に美を極限まで追求する喜びのある仕事に魅力を感じた」
火葬を手掛ける人たちが、口をそろえこだわるのが「きれいに焼く」ということ。そのためには機械の運転技術が重要なファクターとなる。火力の調整をし、遺体の状態と炎の色を総合的に判断し、タッチパネルで弁の開閉、炉圧の調整などを行う。炎の色と一口にいっても7段階の目安があるのだという。
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