鉄道輸出「オールジャパン戦略」の時代は終わった 重要部分に日本の技術導入「コアジャパン」へ

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その反面で「オールジャパン」にこだわったゆえの高コスト体質、意思決定の遅さ、そして日系企業同士の受注争いなどを起因とする弊害も顕在化した。いわば骨折り損のくたびれ儲けであり、次回以降はプロジェクトに参画したくないという企業の声は多い。中には海外事業を金輪際やらないとまで言った車両メーカーすらある。

日本企業参入の障壁を下げるために策定されたSTEPという仕組みが、逆に日系企業のODA離れをより加速させてしまったというのは、皮肉と言わざるをえない。続いて着工されるべきフェーズ2やフェーズ3といった部分に対する応札企業が不在という問題が現に発生しており、被供与国からの信頼も揺るがしかねない事態にも発展している。

インドネシアのジャカルタMRT南北線事業では、2019年3月に南北線のフェーズ1区間が当初予定通りに開業したことが話題になったが、続くフェーズ2では、一部の土木パッケージに応札する企業が1年以上現れず、開業時期が大幅に遅れることになった。最終的に別の区間を受注していた企業が、随意契約する形でこのパッケージも受注することで解決を見たが、これに伴うコスト増は現地カウンターパートからの不信感に繋がっている。

「日本仕様の車両そのまま」は通用しなくなる

同時に、インドネシア側は必ずしも日本製を採用する必要のない通信とAFC(自動改札機や駅務システムなど)部分のアンタイド化を求めているとも言われている。この4月にはフェーズ2に対して2度目の円借款供与となる879億1800万円の契約署名が行われた。いよいよ鉄道業界にとって本命とも言える車両や信号・通信システムなどの入札も始まると思われ、その動向が注目される。

だが、車両基地の建設も確定していないため、フェーズ2は予定より数年遅れでの暫定開業となり、本開業に至っては時期すら見通せない状況になっている。また、インドネシアは日本製品に対しても現地調達率の向上を要求しており、車両であっても日本で製造したものをそのまま輸入することが困難になりつつある。インド同様にSTEP適用対象国でありながら、今後の一般アンタイド化の流れは避けられないだろう。

ジャカルタMRT車内
網棚がないこと、また座席がFRP製であることを除けば、まるで日本の地下鉄そっくりなジャカルタMRTの車内(筆者撮影)
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