鉄道輸出「オールジャパン戦略」の時代は終わった 重要部分に日本の技術導入「コアジャパン」へ

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また、インドネシアと並び、最大規模の円借款受け入れ国であるインドはSTEP条件の適用対象国だが、インド政府は海外鉄道メーカーの進出を政策として受け入れていたため、国内の鉄道産業はすでに成熟している。よって、とくに都市鉄道の分野では、ほとんどの調達条件が一般アンタイドとなっている。

インドでは首都デリー(ニューデリー)を筆頭に、全国15都市で700km以上のメトロ(MRT)網が既に整備されているが、そのうちムンバイ、ベンガルール、デリー、チェンナイなど6都市のメトロの一部区間に合計1兆円以上の円借款が供与されている。しかし、いずれも日本の都市鉄道とは似ても似つかず、ヨーロッパ仕様で固められている。

デリーメトロ8号線車両
円借款で建設されたデリーメトロ8号線の車両。2018年に全線開業し、車両は韓国現代ロテム製、主要機器は三菱製で、現地メーカーのBHELで組み立て。信号システムは日本信号(写真:辻村功)

【2023年6月5日10時15分追記】初出時、写真がデリーメトロの他路線の車両となっていたため8号線車両の写真に差し替えました。

インドには欧州メーカーのほか、韓国のロテムや中国中車、スペインのCAFといった海外メーカーが進出し、さらに現地メーカーも存在するため、“国産車両”の導入が前提になっている。その中で、日系メーカーは信号システムや車両の電機品の一部を納めている形だ。また、円借款で現在建設中のムンバイメトロ3号線は車両、信号システム共にアルストムが受注し、車両は現地工場で製造している。

つまり、発展途上国と呼ばれる国々が成長していく中で、「オールジャパンによる鉄道インフラ輸出」は遅かれ早かれ戦略の見直しを迫られる運命にあった。また、日本のODAは、戦後賠償の系譜を脈々と受け継いでいることから、“東南アジアの盟主たる日本”という面があまりにもフォーカスされすぎており、インドのような新興国の実情が考慮されていなかったというのも反省すべき点である。

現場のひずみが政府に伝わったか

ただ、それにしても早すぎる戦略変更だ。ある関係者は「オールジャパン」から「コアジャパン」への見直しについて、ここ1~2年の動きであると前置きしたうえで、「現場で発生しているひずみが政府、国土交通省にようやく伝わったのではないか? もはや日本の技術が最先端ではない。日本企業向けに案件を作っても企業が出てきてくれないので、かえって相手国を裏切ってしまうことになる。オールジャパンは苦しい」と漏らす。

この数年間で、タイ、インドネシア、バングラデシュ、ベトナム、ミャンマー、そしてフィリピンの都市鉄道に円借款を用いて「オールジャパン」で日本式の鉄道システムが導入された。将来に向けての種をまいたことは一定の価値がある。また、従来は土木、そして車両一式を納入して完了というスタイルが基本だった日本のODAと異なり、「オールジャパン戦略」ではハード面のみだけではなく、メンテナンスや運行管理などの人材育成も含めた「パッケージ輸出」が実行されたのは評価できる。

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