岸田首相のメッセージに反応した北朝鮮の意図 岸田首相は状況打開へ決断力を示せるか
ここで北朝鮮の意図を読み取ってみよう。2019年に、北朝鮮外務省で日朝国交正常化交渉担当大使を務めた宋日昊(ソン・イルホ)大使が談話を発表した。当時は安倍政権だった。
宋大使は、①無条件での首脳会談と言いながら何もしない、②何もしないうえに拉致問題の解決を求め、ミサイル発射が安全保障上の危機であると声高に叫んでいる、と指摘している。
安倍首相の発言に北朝鮮は矛盾を感じていた。「安倍政権には拉致問題と絡めて北朝鮮に批判的な支持者が多いため、彼らに気を遣わざるをえない。だから中身のない言葉を繰り返しているのだ」という見方が北朝鮮では支配的だった。
「拉致問題は解決済み」で動かない北朝鮮だが…
また、2014年にスウェーデンのストックホルムで行われた日朝高官協議で盛り上がった日朝間の対話雰囲気から冷めてしまっていたこともある。この協議では、北朝鮮は拉致問題に関して特別調査委員会を設置し、拉致被害者を含む北朝鮮国内の日本人行方不明者の全面的な調査を行う一方で、日本は独自制裁の北朝鮮向け制裁措置の一部解除を行うとの内容の「ストックホルム合意」を発表した。
その後、北朝鮮は再調査を行い、同年に日本側に報告書を手渡すはずだったが、日本政府側が内容を不満だとして受け取りを拒否した。これにより、北朝鮮側は「やるべきことはやった」という姿勢に転換した。これ以降、日本との外交関係はほぼ前に動かなくなった。
北朝鮮交渉と深く関わってきた日本外務省の斎木昭隆・元外務事務次官は朝日新聞のインタビューで、この調査報告の内容について、拉致被害者と知人の2人の生存情報が提供されたものの「それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取らなかった」と述べている(2022年9月17日付「朝日新聞」記事)。
2014年以降、日本が提起する拉致問題は、北朝鮮にとっては「解決済みの問題」となってしまった。しかし、北朝鮮から聞こえてくる話を総合してみると、だからと言って日本とまったく話をしないということではなかった。
今回の「談話」では、「日本が過去に縛られず変化した国際的流れと時代にふさわしく、互いをありのままに認める大原則的姿勢で新たな決断を下し」とある。これは、「拉致問題だけを取り上げては対話に乗り出せないが、国交正常化のために向けた対話という大きな枠組みで臨むのであれば対話は可能だ」というシグナルだ。
北朝鮮からすれば、対話の前提は「過去の植民地支配に対する謝罪」と、「現在の敵対的行為の停止」になろう。さらに、日本側の本気度を疑っている北朝鮮としては、交渉を始める前段階に何らかの行動がないと、対話には本格的に乗り出せないだろう。
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