日本郵政「正社員の"有休削減"」が示す重たい意味 「同一労働同一賃金」で労働条件の引き下げはOK?

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

ただし、労使で争いになった場合、労働契法第9条の同意を得ず、労働契約法第10条のプロセスだけで就業規則を不利益変更したことが本当に合法だったのかは、最終的には裁判所の判断に委ねられます。

ですから、会社は安易に労働契約法第10条を持ち出して就業規則の変更を行うことをせず、法的リスクがあることを認識したうえで、労働契約法第9条にある同意を「省略する」という慎重な経営判断が必要となります。

このように、労働条件の不利益変更は、労働契約法において厳しく制限されています。たとえ、同一労働同一賃金の実現のためであったとしても、安易に正社員の労働条件を切り下げて、非正規社員との均衡を図る、ということは許されず、労働組合との合意、労働者の個別同意の取り付けなど、慎重なプロセスを経て、初めて可能になるのです。

同じ仕事をしているから「同一労働」ではない

「同一労働同一賃金」は、社会通念上「正社員と非正規社員が同じ仕事をしているならば、賃金水準や、その他福利厚生などは、同等で無ければならない」と認識されていますが、法的に考察すると、「同一労働」とは、決して表面的なアウトプットだけではないことに留意が必要です。

チェーンの飲食店を例に見てみましょう。正社員のスタッフと、アルバイトのスタッフが、同じように接客や調理の業務を行っているということは珍しくなく、典型的な「同一労働同一賃金」の一例に見えるかもしれません。

しかし、正社員とアルバイトでは、表面的な作業は同じであっても、責任や役割に違いがあることが一般的です。

例えば、以下のような項目においてです。

・正社員はお客様からクレームがあった場合に矢面に立って対応する責任があるが、アルバイトは正社員に報告をすればいいことになっている

・正社員は週5日40時間シフトに入らなければならないが、アルバイトは学業や私的な事情を優先してシフト希望を出していい

・正社員は店舗の売上目標に対して責任を負っているが、アルバイトには数字目標は課されていない

・正社員は他店舗で人手不足の場合、休日出勤をしてヘルプに入らなけばならないが、アルバイトはそのような義務はない

・正社員は全国の店舗へ異動の可能性があるが、アルバイトの店舗異動は想定されていない

このような潜在的な役割や責任に違いがある場合、正社員とアルバイトは、法的には「同一労働ではない」ということになります。

したがって、賃金水準や労働条件に違いがあることも違法ではありません。

逆に言えば、正社員と非正規社員で責任や役割に違いがあるにもかかわらず、表面的な部分だけを見て、「同一労働同一賃金」というのは、正社員側に対して「逆差別」にもなりかねないリスクがあるということです。

まして、会社が正社員のほうが責任や役割が重いことを認識していながら、「同一労働同一賃金」に「便乗」して、正社員の労働条件を引き下げるというようなことは、決してあってはならないことです。

正社員として働く人が、会社から、「同一労働同一賃金」のため、休日を減らす、賃金を引き下げる、といったことを提案され同意を求められたり、会社から一方的に労働条件を切り下げられたとき、自社の正社員と非正規社員の表面的な仕事内容だけでなく、役割や責任の差を考え、そこに違いがあるならば、法的にはもちろん、道義的に考えても、労働条件の切り下げを受け入れる必要はないということです。

次ページ労働条件の引き下げは最後の手段と心得る
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事