日本郵政「正社員の"有休削減"」が示す重たい意味 「同一労働同一賃金」で労働条件の引き下げはOK?
ここまで説明をしてきたような、法的ハードルをクリアできる状況であったとしても、同一労働同一賃金の実現にあたり、非正規労働者側の労働条件を引き上げるのではなく、正社員側の労働条件を引き下げることは、やはり、安易に行うべきではないというのが筆者の意見です。
確かに、限られた人件費の中で、同一労働同一賃金を実現せねばならず、予算の都合上、最終的に正社員の待遇を引き下げることが不可避な状況は生じうると思います。しかし、それは、「最後の手段」であるという心構えを労使ともに持っていただきたいということです。
日本郵政は今回賃金アップを実現
同一労働同一賃金は、働き方改革法の中の、法改正項目の1つとして導入され、大企業は2020年4月1日から、中小企業は2021年4月1日から施行されています。
そもそも、働き方改革法の基本的な考え方としては、各企業が生産性を高めたり、働き方を工夫したりすることで、時間外労働の上限規制や、年間5日の有給休暇取得義務など、法改正項目の達成実現を想定しています。
同一労働同一賃金も、それと同じで、各企業の創意工夫により、非正規社員の待遇を正社員並みに引き上げることが、法の意図するところです。
実務的に考えても、待遇を引き下げられた正社員は、モチベーションが下がり、生産性の低下や退職者の増加につながり、悪循環に陥る可能性も否定できないでしょう。
まずは、業務の効率化やアウトソーシングの活用などで社内の負担を減らしたり、場合によっては、営業時間の短縮や商品やサービスの値上げなど、顧客に負担を求める方向の舵取りもありうると思います。
あるいは、ある労働条件を切り下げても、別の労働条件を改善させて不利益を緩和するといった代替策の実施も望ましい対応です。
それらの検討を尽くしたうえで、真にやむをえない場合に、はじめて正社員側の労働条件の引き下げに手をつけるべきです。会社が努力や誠意を尽くしたうえであれば、労働者側としても納得感を持ちやすいはずです。
本稿の冒頭で紹介した、日本郵政グループの正社員の休暇縮小による同一労働同一賃金の引き下げにおいても、休暇が減ることの代償として、賃金アップが労使合意されているそうです。この点の日本郵政グループ側の配慮は、高く評価されるべきでしょう。
最後に総括として、本稿の執筆の意図としては、冒頭の日本郵政グループの事例をもとに、「同一労働同一賃金実現のためならば、正社員側の労働条件の引き下げもOK」というような社会認識が広まることにストップをかけたかった、という思いがあります。
日本郵政グループにおいても、決して会社が一方的に正社員の休暇を減らしたのではなく、上述したとおり、会社と労働組合で協議し、昇給を示したうえでの休暇削減という動きを取っています。
正社員側の労働条件の切り下げによる同一労働同一賃金の実現は、労働契約法の不利益変更のハードルをクリアすることや、真に「同一労働」と言えるかを検証のうえ、働く人のモチベーションにも配慮しながら、慎重に行わなければなりません。
また、できることならば労働条件を切り下げを避けたうえでの同一労働同一賃金の実現を、各企業には目指してほしいものです。
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