味の素「ヒット商品が出ない」組織改革の苦闘 社長肝いりプロジェクトで「優等生社員」に喝

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4月には社内で若手・中堅社員中心のプロジェクトも立ち上がった。

議題は社内の課題を徹底的に洗い出し、具体的に業務を変える提案を行うこと。6月30日には藤江社長をはじめ、経営陣に対してプレゼンを控えている。ハードな内容だが、社内公募で35人の手が上がった。

引き締まった雰囲気が漂う若手・中堅の会議。藤江社長からは「絶対に忖度するな」との指示が飛んでいる(記者撮影)

本社から数分離れたビルの会議室で議論されているのは、実にリアルな課題の数々。浮き彫りになったのは巨大組織で縦割りになりがちな点や既存事業の枠組みから抜け出す難しさだった。

「自分の担当以外の商品の原料や生産工程を知らない」「真面目な社風にコロナも重なり、書類で仕事をしがち」「既存事業は歴史と実績があり安定している。営業マンも売れるかどうかわからない商品の育成を、腰を据えてできない」

簡単に「答え」が出るとは思っていない

会議を統括するのは、栄養・加工食品事業部スープグループ長の島谷達也氏。岡本氏との仕事の経験も長く、ヒット商品「鍋キューブ」にも携わったマーケターだ。

島谷氏が指摘するのは、真面目な社風ゆえの課題。「優等生の社員が多く、与えられたフィールドで全力を尽くす。悪いことではないが、新しいこと、不確実なことに接する機会は減ってしまう」。新商品を生み出すには、世間の困り事を自分事として必死に意識しなければならないという。

「過去の勝ちパターンは通用しない。今後を担う中堅社員の新たなチャレンジを作ることが目的。3カ月でピカピカの答えが出て、ヒットが生まれるなど全然思っていない」とも語る。ただし、このプロジェクトを機にチャレンジが生まれて評価され、多くの社員が経験値を積み重ねる姿はイメージしているようだ。

4月から動き出した社長肝いりの組織改革で、味の素は再び市場を刺激する尖った新商品を生み出せるか。その結果は「優等生」の社員たちがどれだけ覚醒できるかにかかっている。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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