あんしん生命、元営業職員4億円詐取に透ける課題 大量離職問題がもたらす再発防止の高い壁

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あんしん生命では2022年12月以降、名義変更手続きをした場合は変更前の名義人にも手続き完了の通知を送付するように対応を改めているが、それによって同様の手口を今後封じ切れるわけではない。なぜなら「『システム上どうしても通知が送付されてしまうけれども、不要なので廃棄してください』などと事前に言っておけば、顧客は不審に思わず、発覚しにくいからだ」と大手生保のある幹部は話す。

あんしん生命では、再発防止策として上記のほかに支社や本社における営業管理体制や新規契約に偏った人事評価・報酬制度の抜本的な見直し、コンプライアンス(法令順守)部門の増員なども打ち出している。だがそれらも結局は泥縄式の対応でしかなく、それさえこなせば根本的な原因の解消につながるというものではない。

では、再発防止策の実効性を高めるために求められる取り組みとはいったい何なのか。その1つは、今回の報告書ではまったく触れられていない「ターンオーバー」と呼ばれる営業職員の大量採用・大量離職問題への対応だ。

そもそもあんしん生命に在籍する約650人のLPのうち、入社から25カ月目に残っている人の割合は50.5%にとどまる。2年間で約半分の人が入れ替わってしまうというのが実情で、これはほかの生保にも共通する構造的な問題だ。

そうした状況の中で、不正を働いた元LPは中途採用で2010年に入社している。報告書によると、元LPは少なくとも入社から3年後には契約締結の見返りに金銭を契約者に提供するといった保険業法の違反行為に手を染め始めていたといい、もともとコンプライアンス意識の低い人物だったとみられる。

人材の質を確保するには

不正の再発防止に向けたさまざまな仕組みを会社として整えたところで、そうした人物が営業部隊にひとたび入り込めば、管理の網をすり抜けるようにして不正行為が発生してしまう。その現状において、頼みの綱になるのは個々の職員の高い倫理観だ。しかしながら、たった2年で半数の顔ぶれが変わるような状況で、倫理観の高い人材を集め続けるというのは至難の業だろう。

もし現状の運用では人材の質を保てないというのであれば、おのずと採用者を厳選して質を維持できる水準まで営業の陣容を縮小するしかない。今から3年前、19億円の巨額詐欺事件を引き起こした大手生保の第一生命では、すでに営業職員の年間採用数をピーク時の約3分の1にまで絞り込んでいる。

東京海上グループの子会社として、これまで親会社から高い業績目標を課され、業容拡大を最優先してきたあんしん生命が、規模縮小という真逆の経営判断に踏み込めるかどうか。それが今後の経営改革の本気度を測る一つの指標になりそうだ。

中村 正毅 東洋経済 記者

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なかむら まさき / Masaki Nakamura

これまで雑貨メーカー、ネット通販、ネット広告、自動車部品、地銀、第二地銀、協同組織金融機関、メガバンク、政府系金融機関、財務省、総務省、民生電機、生命保険、損害保険などを取材してきた。趣味はマラソンと読書。

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