「今思えば失望させないための草下さんなりの優しさなのですが、正直『畜生!!』って思って。絶対に売れる本を作ってやるって思いました。最初は1カ月の予定だったんですけど、取材期間を延ばして、最終的に78日になりました。最後は、僕みたいなひよっこがこの街にいること自体が生意気なんじゃないか? みたいな気持ちになってきて、逃げるように帰ってきました」
本はロングセラーに。いろいろなことが180度変わった
東京に帰ってきたが、大阪に行く段階でアパートは解約していた。
再び、学生時代に働いていたゲイマッサージ店で働くことにして、お店の待機室で生活をすることにした。
「僕は相変わらずの人気でした。1日約5人の客が入って、マッサージとマッサージの合間に原稿を書くという感じでした」
そうして発売された『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』は売れた。
ロングセラーになり、6万部を超えるヒットになった。
「それだけの部数出るとやっぱ認知が広まっていろんな所からメールが来るようになりました。そこからいろいろ180度変わったみたいな感じでした」
そんな折、写真週刊誌のスクープ記者の欠員が出ているから、働かないか? という誘いがあった。
草下さんが推薦してくれて、スクープ記者として業務委託することになった。それを機にゲイマッサージの世界からは足を洗った。
「芸能人の尾行をするのがメインの仕事でした。その時は面白かったんですけど、正直実績にもならないし、後で語れる経験にもならないな……と思っていました」
そう思っていたところに、雑誌プレジデントの編集部から直接連絡があった。会った一言目に、
「その写真週刊誌は辞めて、うちに来い」
と言われた。
「それで、きっぱり写真週刊誌はやめて、プレジデント編集部に入って、編集者の仕事をすることにしました。特集と連載の企画を出して、記事をライターに振って書いていただくという感じです。最初は自分でも原稿を書いていたんですけど、編集という仕事はそういうことじゃないって段々分かってきて。現在は、プレジデント、週刊SPA!、みんかぶマガジン、と3つの媒体でフリーランスの編集として働きながら、ライターとしては別の媒体で活動しています」
そんな多忙な日々を送っている中、KADOKAWAから、本を出しませんか? という提案を受けた。
「5つくらい企画を出してほしいって言われて、4つは無難な企画を出したんです。で、5つ目は思い浮かばなくて、前にやってみようか? と思ったけど断念した『ホームレスになってみる』という企画書を出してみたんです。まさか、KADOKAWAという大きい会社で通らないだろうと思って。
そうしたら、その企画が通ってしまいました。編集部からは、『じゃあホームレスになってきてください!!』みたいに言われちゃって、めちゃくちゃ困りました。今やってる仕事どうするの? って。先延ばしにしていたんですけど2021年の7月に『年内に本を出しますから、もう行かなきゃ間に合わないです!!』って言われました」
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