"国会での論戦"で見えた「日本の保育」重大争点 「異次元の少子化対策」保育においてはどうなのか?

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「最低基準を引き上げた場合、すべての保育園で基準をクリアする必要が出るため、保育士確保で現場に混乱が生じる可能性もあります。現状、様々な園において基準に達しないということも起こる可能性がある」(小倉大臣)

この答弁に対して井上議員は、保育士の資格を持ちながら保育士として働いていない潜在保育士の多さを指摘。「厚生労働省の資料では、2019年で保育士の有資格者は160万7000人いるが、保育所などで働いているのは62万6000人で38.9%に過ぎない」と切り返した。

井上議員(画像:参議院インターネット審議中継より)

そして、井上議員は「配置基準の抜本改定は、魅力とやりがいのある職場につながる。基準どおり配置できない保育園ができるということでない。これだけの資格者がいるわけですから、保育士が保育園で働けるようにするためにも1人当たりの子ども数を減らす点で、基準の改定は待ったなしだ」と小倉大臣に詰め寄った。

多くの国会議員が基準引き上げを求めるなか、国が言い訳にする保育士確保の問題には疑問が残る。

2022年12月の段階で、認可保育園全体の約2割が既に「チーム保育推進加算」という運営費の上乗せ制度を使って4~5歳児の「25対1」を図っている実態を、内閣府は把握していた。そのうえで、現場が「25対1」でない園の定員分布を分析。「121人以上の大規模な認可保育園が全体の約2割を占め、その4歳児クラス、5歳児クラスの人数が平均で25人を超えている」(内閣府、当時)として、2023年度から「チーム保育推進加算」を拡充したのだ。つまり、既に大半の園で「25対1」になっているのだ。

1歳児の配置については、東京都などの自治体が上乗せ補助を行い「5対1」を既に実現しているケースが少なくない。出生数減少により定員割れしている保育園が急増するなか、行政サイドからも「待機児童が多かった数年前であれば基準引き上げで混乱が生じてしまうが、今は状況が違う。最初は加算方式でも、何年かかけて基準を引き上げればいい」との見方がある。一方で、複数の国会議員が「保育園経営に近い立場の国会議員が、基準引き上げに猛烈に反対した」と明かす。

都市部や地方の複数の保育園経営者、業界団体の役員などは「園の評判が悪いことで保育士が集まらない場合があるだろうが、現状、配置基準が引き上げられても保育士確保に問題はない」と口を揃える。たとえ直ちに配置基準の引き上げとならなくても、数年後に基準を変えると宣言して猶予期間を作るなど、工夫はできる。今後の国会論戦でも国を動かす議論は見られるだろうか。

小林 美希 ジャーナリスト

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こばやし・みき / Miki Kobayashi

1975年、茨城県生まれ。株式新聞社、週刊『エコノミスト』編集部の記者を経て2007年からフリーランスへ。就職氷河期世代の雇用問題、女性の妊娠・出産・育児と就業継続の問題などがライフワーク。保育や医療現場の働き方にも詳しい。2013年に「『子供を産ませない社会』の構造とマタニティハラスメントに関する一連の報道」で貧困ジャーナリズム賞受賞。『ルポ看護の質』(岩波新書、2016年)『ルポ保育格差』(岩波新書、2018年)、『ルポ中年フリーター』(NHK出版新書、2018年)、『年収443万円』(講談社)など著書多数。
 

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