坂根理事長がコロナ禍で取り組んできたことの1つは、WEB問診だ。
コロナ患者との接触を極力避けて、ほかの患者への感染を防ぐために導入した。患者には来院前に発熱の時期や症状の程度などを、スマートフォンやPCで入力してもらい、その内容を、患者の電子カルテ画面に反映させるようにして、来院後の診察の時間をできるだけ短くできるよう効率化を図った。
その後、オンライン診療もスタートさせ、今年4月までに3000人以上のコロナ疑いやコロナ患者を診療し、コロナ禍を乗り切ってきた。
「コロナが5類になったとしても、コロナがなくなることはない。感染予防意識が希薄になって、感染者数が再び急増して今後、第9波が起こるかもしれない」と坂根氏。5類になれば、患者はどの医療機関も受診できるようになるが、坂根氏はこの点を疑問視する。
「政府は5類移行で対応医療機関数を増やすことを目標にしているが、それだけでは十分ではない。コロナ患者への診療能力のある限られた医療機関に、患者が一気に押し寄せないよう、何らかの工夫をしてほしい」
医療機関は「応召義務」を果たせるか
坂根氏も言うとおり、5類移行でどの医療機関もコロナ疑いの患者を受け入れなくてはならなくなった。そこであらためて取り沙汰されているのが、医師法19条、医師の「応召義務」だ。
同条は<診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない>としている。
医師で弁護士の帝京大学医療共通教育研究センター教授の大滝恭弘氏は、「現行の応召義務は、医業を独占する医師に対し、患者が適切な医療にしっかりアクセスできることを求めるものであり、倫理的性格の強い規定」と話す。
5類に移行するとコロナは季節性インフルエンザと同じ分類になるので、コロナに罹患したり、疑いだったりしたりするだけの理由で診療を拒むことはできなくなる。
「もっとも、医療機関内に、例えばがんやリウマチなど免疫抑制剤を使用している患者がいて、それらの患者と動線を分けることができないような場合には、近隣の医療機関を紹介するなどにより、診療を断るのは合理的な対応といえる」と付け加える。
大滝氏が懸念しているのは、「あの医療機関は法律違反(応召義務違反)をしている」といった風評被害だ。
コロナ以前から、ネット上の根拠ない低評価などの書き込みで、診療に影響が出ている医療機関もあった。削除には手間と費用がかかり、書き込みはきりがない。5類移行後は、いわれのないネットでの書き込みで、応召義務違反のレッテルを張られてしまえば、医療機関には大きな影響が生じる可能性がある。
入院患者の減少と、行動の制限が解かれたことによるコロナ重症者の増加、そして応召義務の風評被害……。医療機関が正念場に立たされている理由は、それだけではない。医療従事者の離職にも頭を抱える。
コロナは医療従事者にストレスを与え続けてきた。コロナ患者を受け入れることで、現場はストレスを抱え、看護師が退職すれば同僚の看護師のほか、他職種にしわ寄せがおよぶという、まさしく「負の連鎖」が起きた。
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