「安すぎた」ファミマTOB、伊藤忠との攻防の全内幕 地裁決定文が指摘「機能しなかった特別委員会」

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伊藤忠、ファミリーマート、特別委が各々選任した財務アドバイザーが算出した企業価値は下表の通りだ。企業価値算定において最も一般的な方法とされるDCF法で比べると、伊藤忠が雇った野村の下限1701円と、特別委が雇ったPwCの下限2472円には700円もの開きがあった。PwCのDCF法による価格は2472~3040円で、実際のTOB価格2300円がこのレンジを下回っている点を東京地裁は指摘している。

当初、特別委は一般株主のために交渉努力を行っていたもようだ。

安く買いたい伊藤忠側はコロナ禍による環境変化を理由に、TOB価格を2600円から2000円に引き下げ、コロナ禍の影響を織り込んだ業績予想の下方修正を促したとみられるが、特別委はこうした要求に抵抗し、2020年6月5日には2800円が妥当な価格だと伊藤忠側に伝えている。

このほか、伊藤忠側に対して買い付け株数の下限やMOM(マジョリティ・オブ・マイノリティ)条項の設定を強く要求していた。どちらも一般株主保護の観点から必須とされているものだ。

買い付け株数の下限は、多くの場合、TOB終了時点で買収者が3分の2を取得できる株数に設定される。これはTOB成立後、TOBに応募しなかった株主から強制的に保有株を買い取る決議をするために開く株主総会を意識したものであると同時に、一般株主からの一定以上の賛同が得られない場合は、買収を止めるためという意味がある。

MOM条項は、少数株主の過半数の応募がなければTOB不成立とするもので、取引を不公平だと考える少数株主に、取引を拒否する機会を与える目的がある。

当時、50.1%のファミリーマート株式を保有していた伊藤忠は、TOBで完全子会社化を目指していた(撮影:梅谷秀司)

伊藤忠会長の意向も含めて決定

ところが、伊藤忠側は6月26日に提示した2300円からの価格引き上げに応じなかった。またMOM条項に基づく下限設定にも応じる意思がなく、しかもそれらが伊藤忠の岡藤正広会長の意向も含めて決定されたものであることを、ファミリーマートの財務アドバイザーであるメリルリンチが伊藤忠の財務アドバイザーである野村証券から聴取している。

特別委が雇った中村・角田・松本法律事務所やPwCだけでなく、ファミリーマートが雇った森・濱田松本法律事務所やメリルリンチも以下のような助言を特別委にしていた。

①下限設定すらない状態では賛同意見すら出しにくい。②ファミリーマート自身の想定に比べ、悲観的な将来シナリオしか描けない伊藤忠による買収に賛同することは難しい。③PwCが出したDCF法による算定結果のレンジに入っていないTOB価格に賛同することはありえない。④伊藤忠が価格を引き上げないのであれば協議を終了すべき。特別委もこれらの助言に従う方向で交渉方針を決定していた。

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