83歳の志茂田景樹「やりたいことはやり残すな」 悩みを抱える若い世代に伝えたいメッセージ

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何かの不祥事に連座してまだ30歳そこそこで依願退職したという。きっと、自分の傲慢につまずいたんだろ。

その道での年長者が持っているものは、こっちが常に懐を深くしていれば尽きることがないぞ。

そういう意味では無限なのだよ。

医者嫌いの父が病院へ行くまで

余談になるが、父が悠々自適の生活を送っていた80歳のとき、トイレに入ると30分、1時間もいるようになった。やせてきたし、顔色も悪くなった。

便通障害を起こしているとわかり、重大な病気が隠れているのではないか、と僕は案じたのよ。父は頑健だっただけに、上に馬鹿がつくほどの医者嫌いで、こりゃまずいな、と思ったぜ。

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案の定、心配した母が何度病院行きをすすめても取り合わない。しまいには母を怒鳴りつけるようになった。

僕は一計を案じて、やはり、悠々自適の生活に入っていたYさんを訪れ、あることを頼んだのよ。それからしばらくして、Yさんは通りがかりのようにわが家に立ち寄り、父としばし歓談した。

帰り際に、「きみ、顔色がよくないぞ。病院へ行けよ」とさりげなく言ってくれた。

翌日、父は素直に病院へ行った。

10日程経って僕だけ呼ばれ、直腸がんで肝臓と肺に転移しており、余命3ヶ月と告げられたのよ。父はすぐに人工肛門を装着して約1年後に穏やかにこの世を去った。もしYさんが病院行きをすすめてくれなかったら、そうはいかなかったろうな。

父はYさんには常に懐を広げて吸収していたってことよ。

志茂田景樹 作家

1940年、静岡県生まれ。中央大学法学部卒業後、さまざまな職を経て作家を志す。1976年、『やっとこ探偵』で小説現代新人賞を受賞。40歳のとき『黄色い牙』で第83回直木賞を受賞。ミステリー、歴史、エッセイなど多彩な作品を発表していく。活字離れに危機感を持ち、「よい子に読み聞かせ隊」を結成、自ら隊長となり幼稚園や保育園をはじめ、さまざまな箇所を訪問。絵本『キリンがくる日』(木島誠悟・絵、ポプラ社)で第19回日本絵本賞読者賞【山田養蜂場賞】受賞。2010年4月から「@kagekineko」のアカウントでtwitterを開始。読む者の心に響く名言や、質問者に的確なアドバイスを送る人生相談が話題を呼び、フォロワー数は41万人を突破している。

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