70年以上ひたすら石を集めた男の凄まじい人生 禁固刑に処されても、石があるからストレスなし

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それからちょうど1年後の正月18日、石亭が大津の高観音を参詣したとき、夢に見たのとまったく同じ光景を目にする。そう、古道具屋に葡萄石が吊るしてあったのだ。俗にいうデジャヴというやつだ。

もちろん石亭は、即座にその葡萄石を買い取った。このおり「すべて夢のごとし。あに奇遇にあらずといわざらんや」(『雲根志』)と感激した石亭は、この現象は神のお告げであり、己の行くべき道を指し示す霊夢だと認識した。

禁固刑に処されても石を愛玩し、ストレスなし

さて、20歳になった石亭は、にわかに木内家の跡取りから外され、分家の身となってしまう。その理由だが、どうやら石亭が「貪吏罪」に連座したからのようだ。具体的な罪科はつまびらかではないが、文字づらからいえば、村役人の身で汚職にかかわったと思われる。つまり、木内家の体面を汚したということで、跡継ぎから外されてしまったと推察できる。

ただ、石ばかりを愛でて暮らす石亭を見て、当主の重実が木内家の将来に不安を感じた可能性も指摘されている。

なお、この罪で石亭は、禁固3年に処されている。同時代の畑鶴山 (維龍)が記した随筆『四方の硯』には、処罰された石亭について次のように記されている。

禁固中に連座した仲間はみな病死したが、石亭とその妻は「つとに起き、夜は寝るまで石もてあそび、起居動止まめやかにして(まじめで注意が行き届いている)3年の星月ふる事を忘れて石を手すさみ(いじって)楽しみければ、身にいささかの悩みなく、夫妻ともにすこやか(健康)也。その後に罪ゆるされて、石を好むこと元のごとし。常に人に語りて曰く、吾、石を玩する癖(楽しむ趣味)なくば必ず病にかかりて、身なくならまし(死んでしまったものを)を、石の吾を冥助する(守る)こと、いと篤しと物語りぬ」。

このように石亭は、「自分たちは、石を愛玩したのでストレスもなく、健全な生活を送ることができた。石が私たちを守ってくれたのだ」と語っていたというのだ。ここまでくるともう、石に対する絶対的信仰心とさえいえようか。

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