別府と湯布院、コロナ明け後の温泉地が様変わり タクシー運転手が見た外国人観光客と街の様子

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この言葉の通り、別府の街を走るタクシーは明らかに昼のほうが多いことが目についた。一方で、九州で最も高い平均推計収入があるということについてはこのような見解を述べた。

「もちろん観光客の戻りは一因にはあると思いますが、せいぜい3対7程度の割合で地元の方の利用のほうが多い。単純に稼働台数の減少幅が他の地域よりも大きいため、1人当たりの売り上げが高いという事情もあります。

昼に観光客や地元客が比較的動く地域のため、乗務員さんは日中の営業である程度数字が立ってしまう。高齢の方にとって、夜は出たくないので昼だけで完結するという働き方をする人も増えている。タクシー会社にとっては、本来なら稼ぎ時の夜の売り上げが伸びないというのは頭が痛いところですね」

別府と由布院を見ていて興味深かったのが、街を訪れる層の住み分けがされていたことだった。前出の観光協会の幹部に聞いても「別府は夜に遊ぶ場所も多くて、由布院とは基本的に層が被らないんです。だからお客様を奪い合っている感もなければ、特に協力をしあっていることもありませんね」という。実際に筆者の感覚でも、由布院が若者向けの小じゃれた店が多いことに対して、別府は少し年齢層が上がり、家族連れの割合も多いように感じた。それでも、タクシーという視点で考えるなら類似する部分もあった。

別府に本社を置くタクシー会社の社員は、こんな表現を用いて現状を分析した。

「確かに観光利用や観光の問い合わせは増え、貸し切りや時間貸しの利用も実際に増えています。ただし、タクシーに関しては、別府も由布院も観光客の増加の恩恵を十分に受けているとはいえません。打てる手はあると思いますが、乗務員さんが劇的に減っているため施策としてできることは限られ、日々の営業で手一杯なのが現実。全国の温泉地でも、同じような問題を抱えているところが多いのではないでしょうか」

別府市、由布市がそれぞれ発表している観光動向調査では2019年にはそれぞれ62万人、67万人を超える外国人がこの地を訪れていた。タクシーや街の声を拾うと、今年はその水準に近い数字になるのではないか、という意見もあった。温泉地で再び訪れつつあるインバウンドバブルだが、それでも現地では素直に喜べない複雑な事情も見て取れた。タクシー業界にとっては、この好機を十分に生かすためにはまだ課題のほうが多そうだ。

栗田 シメイ ノンフィクションライター

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くりた しめい / Shimei Kurita

1987年生まれ。広告代理店勤務などを経てフリーランスに。スポーツや経済、事件、海外情勢などを幅広く取材する。『Number』『Sportiva』といった総合スポーツ誌、野球、サッカーなど専門誌のほか、各週刊誌、ビジネス誌を中心に寄稿。著書に『コロナ禍の生き抜く タクシー業界サバイバル』。『甲子園を目指せ! 進学校野球部の飽くなき挑戦』など、構成本も多数。南米・欧州・アジア・中東など世界30カ国以上で取材を重ねている。連絡はkurioka0829@gmail.comまで。

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