一見「普通の駅」が地域に愛されるデザインの秘密 「銀河」の川西氏が手がけた神戸電鉄花山駅

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神戸電鉄の設立は1926年。その2年後の1928年には神戸の市街地にある湊川と有馬温泉を結ぶ有馬線が開業した。

有馬線は六甲山系と帝釈・丹生山系の間を縫うように走る。当初は神戸から有馬温泉に向かう行楽路線の色彩を強く帯びていたが、高度経済成長期を迎えると、有馬線の沿線各所でニュータウンの開発が始まった。海沿いのタワーマンションが存在しない時代であり、人々は山側に住む場所を求めていった。

1965年、花山駅が開業した。神戸電鉄が谷上―大池間に350区画からなる「花山住宅地」を開発し、その交通アクセスとして新駅が造られた。1968年には神戸高速鉄道の新開地が開業し、神戸高速、阪急、阪神との連絡運輸が始まった、今でこそ神戸の繁華街といえば三宮だが、当時は新開地が神戸の中心的な街であった。その新開地への乗り入れが実現したことで有馬線の利便性は格段に高まった。

1970年代に入ると日本住宅公団(現在のUR)が花山駅の南側に団地を建設するなど多くの集合住宅が建設された。1984年には駅と団地を結ぶ日本初の斜行エレベーターも設置された。愛称は「スカイレーター」。2基のエレベーターが垂直ではなくケーブルカーのように斜め方向に移動する。

スカイレーター
花山駅と南側の団地を結ぶ日本初の斜行エレベーター「スカイレーター」(記者撮影)

「まるで未来の乗り物ですよね。半世紀前の花山は未来都市だったのです」と川西氏が話す。この地で20~30代のファミリー世帯が夢いっぱいに過ごしていた。多くのファミリー世帯が花山だけでなく、有馬線の沿線各地に移り住んだ。

花山駅のリニューアルデザインを手がけた川西康之氏(記者撮影)

駅の刷新は「地域活性化」の一環

その後、時は流れ、人口減や高齢化により沿線の輝きは少しずつ失われていった。高齢者の割合が増え、空き家も目立つようになった。

神戸の中心が新開地から三宮に移ったのも響いた。新神戸―谷上間を結ぶ北神急行線が1988年に開業し、有馬線の谷上以北と三宮がショートカットで結ばれるようになったが、建設費がかさみ北神急行線の運賃が高額なのがネックだった。

このままでは有馬線の沿線は衰退する。若い世代を呼び込むため沿線の活性化が必要と判断した市は、まず北神急行線を2020年6月に阪急電鉄グループから買い取り、北神線と名を改めて市営地下鉄と一体的に運行することで運賃を大幅に引き下げた。

さらに同年11月、市と神戸電鉄は駅前再開発や地域活性化に関する連携協定を結んだ。両者が共同で取り組む課題の1つが駅舎のリニューアル。沿線各駅の中からまず選ばれたのが花山駅と大池駅。谷上駅に近くて北神線の運賃削減メリットの恩恵が大きいことから、今後利便性が最も高まりそうな駅として期待されたからだ。駅舎リニューアルの設計監理には川西氏が起用された。

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