一見「普通の駅」が地域に愛されるデザインの秘密 「銀河」の川西氏が手がけた神戸電鉄花山駅

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デザイン策定にあたり、近鉄・結崎駅のリニューアル時に行ったような地域住民とのミーティングの実施は見送った。人口が少なく住民同士が顔見知りというケースが多い結崎駅と違い、神戸のような大都市では、ミーティングの場でさまざまな意見が飛び交い、話がまとまらなくなることが危惧されたためだ。その代わり、川西氏は詳細なリサーチを重ねて、駅に対して誰もが期待する役割を最大限に追求することにした。

「雨の夜、会社から帰ってくるお父さんを、子供が傘を持って出迎える場所にしたい」――。これが川西氏の描く具体的な新駅舎のイメージだ。以前の駅舎は屋根が小さく、改札を抜けるとすぐに外だ。そこで屋根を大きくして、屋根の下で待ち合わせができるようにした。「駅全体を六甲山・摩耶山の山並みのようなトンガリ屋根で包み込みたい」(川西氏)。

花山駅新駅舎
屋根を大きくし、下で待ち合わせができるようにした新駅舎。駅の外にはベンチも(記者撮影)

完成した屋根だけを見ていては感じられないかもしれないが、駅から少し離れた場所から見てみると、駅舎のサイズと比較して、屋根がずいぶん大きいことがわかる。そして山並みを思わせるトンガリ屋根。遠くからでも目立つ、「地域のシンボル」を目指した結果だ。神戸電鉄の寺田信彦社長も、「日本的感性の折り紙のようだ。六甲の自然に溶け込んでいる」と太鼓判を押した。

改札越しに桜並木が見える設計

だが、屋根を大きくする設計は容易ではなかった。本来ならすべてを鉄筋コンクリート造で作ることが最も合理的だが、最近の鉄道の駅舎はほとんどが鉄骨造である。工期が短く、屋根の防水についても比較的シンプルであることがその理由だ。「鉄筋コンクリート造は雨漏りに課題があるためNGとなり、鉄筋コンクリート造と屋根だけ鉄骨造というハイブリッド構造になった」と、川西氏が説明する。鉄骨造の大きな屋根を支えるための柱を雨どいのように細くするなど、さまざまな工夫を重ねて実現した。

屋根以外にも工夫を凝らした。「電車の到着を座って待てるようにしたい」(川西氏)。そのために駅の外には多数のベンチを設置した。民家の縁側をイメージしたという。

まだある。花山駅の線路沿いに連なる美しい桜並木をデザインに取り入れたいと川西氏は考えた。そこで考えたのが、駅の外から改札口越しに桜が見えるようにすること。「今年の桜の開花は例年より早かったので、式典の日まで桜が持つかやきもきしていました」。願いが通じ、完成記念式典の当日は満開の桜の下を電車が行き交う様子が見られた。

花山駅改札口と桜並木
改札口から線路沿いの桜並木が見通せる設計だ(記者撮影)

「今となっては、以前の駅舎がどんな形をしていたか思い出せないね」。完成記念式典を見守っていた人たちの中からこんなつぶやきが聞こえた。新しい駅はここに住む人たちの記憶にどのように刻まれていくのだろうか。

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大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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