ブームから四半世紀、杜仲茶から意外な展開 日立造船が続けたバイオ研究の開花近づく

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いよいよ事業化、共同研究で用途拡大

トチュウエラストマーの生産技術の開発も進み、2008年にはNEDOの助成事業として中国でパイロット生産プラントを建設して実証運転に成功。それを受け、いったんはバイオ事業から手を引いた日立造船も、新規事業として再びトチュウへの投資を決め、中国法人設立などに踏み切った。研究室から日立造船社員になるキャリアパスもでき、現在、中澤の率いるバイオ室の室員24人が阪大の共同研究チームを兼ねる格好で、うち15人は大学に常駐している。

原料確保から加工までの一貫体制がみえてきたところで、数年前から中澤が力を入れているのがトチュウエラストマーの用途開発だ。自動車関連や住宅関連などの大企業、大学周辺の中小企業を取り混ぜた様々な企業と共同研究を進めており、素材として安定供給する先を確立したいところ。

原料コストは下がったとはいえ、化合品に比べると割高でもあり、「汎用品向けの素材ではない」。バイオ素材としての環境負荷の低さに加え、分子構造上の特性などが付加価値となる製品分野を開拓するべく、各種展示会などへも精力的に出展している。

トチュウエラストマーはすでに製造特許も取得(一部は大阪大学と共同出願)。現在は用途先企業との共同開発に力を入れるが、将来的には技術供与で収入を得る道も開けるかもしれない。ただ、ポリマー自体の量産は日立造船の狙いではないという。現在、同社の主力事業となったゴミ焼却発電プラントに代表される大型機械で構築した事業モデルにならって、産業機械として納入実績のあるシートフィルム成形機などの顧客先の化学品メーカーにトチュウエラストマーの採用を働きかけたり、装置の運営自体を請け負ったりするビジネスを構築する方向だ。

将来の事業展開については現時点では構想の域を出ないが、環境に負荷の少ないバイオ原料としての特徴を生かし、「用途開発や受託などの実績を増やして業界の信用を得ることが優先課題」。トチュウの可能性をさらに探求する後継研究者を育てることも、中澤にとっての使命といえるかもしれない。

勝木 奈美子 東洋経済 記者

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かつき なみこ / Namiko Katsuki

環境・水処理機器、プラントメーカーなどを担当。現職はメディア編集部長

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